賭博依存症患者に対する対応施策として、諸外国で用いられている手法に「自己排除・家族排除プログラム」と呼ばれる手法がある。賭博依存症の症状を呈する患者も平常は冷静であることから、冷静な時点で本人を説得し、本人の任意の判断として、カジノ場への立ち入りを排除されることを同意するプログラムである。一端、本人が同意した場合、写真等の個人情報がカジノ施設に配布され、施設への入場・立ち入りを禁止されると共に、立ち入りが露見した場合には強制退去の対象となり、その際の顧客勝ち分は全て没収されることになる。プログラムに参加するという意思はあくまでも本人の任意の判断になるが、プログラム自体を制度として位置づけることが米国の様々な州およびその他の先進諸国では一般化しつつある。
任意性の強いプログラムである割には、一定の抑止効果があること、個人の責任の範囲で問題に対処することを政策的に支援することが適切であること等とする考えがその背景にある。
この考え方の実践には下記のような様々なバリエーションが存在する。
① 制度として自己排除プログラムを位置づけ、個別の施行者(カジノ・ハウス)がかかるプログラムを開発し、顧客に提供することを義務付ける考え方がある。プログラムを顧客に提供することが施行者にとっての義務とはなるが、如何なるプログラムの内容になるかは制度として明記せず、あくまでも顧客にとっての任意プログラムとして一切強制しない考え方をとるアプローチとなる。本人が出頭して、個人の意思を確認した上で、実施されるプログラムになり、家族等が代理することは不可となる。あるいは対象者が、指定の場所で、認定カウンセラーの立会を経て申請する場合には、郵送による申請を認め、その後当局より本人に対する意思確認通知がなされ、これが確認された後に初めてプログラムが胎動する等という手法をとる制度もある。
② 制度として自己排除プログラムを位置づけ、当該主体が自らのコッミットメントに反し、カジノ施設に立ち入ったことが露見した場合には、警告の後退去を要求される。当該本人が退去しない場合、家宅侵入罪を適用し、処罰の対象にすることまでを規定する。制度として依存症患者を排除する考え方までを規定する手法になり、排除の考えにより、強制力をもたせ、プログラムをより効果的に運営できるアプローチになる。尚、この場合、申請は本人のみで、本人が必ず規制機関に出頭し、第三者(規制機関、カウンセラー等)立会のもとで、申請をコミットするという手法が採用されることが、先進諸国での慣行となる。
果たして、プログラムに参加しても、不特定多数の顧客を対象とするカジノ施設で、特定の主体を排除することが物理的に可能なのか、この排除の仕組みは効果があるのかについては様々な議論がある。通常の場合、米国、カナダ等では入場に際し、一般顧客を対象とし、本人確認のためのIDチェックをしておらず、誰でも入れる可能性があるからである。この意味では、入場規制が緩やかな制度的環境の下では、自己排除プログラムの有効性を疑問視する意見もある。 カナダでは、顔認証技術を用いて、場内に入る顧客を全てモニターし、プログラムに参加した依存症患者が施設内に入ることを阻止するシステムを設けて、顧客に対し負担をかけない手法を用いて、リスト化された自己排除プログラム対象者を効果的に排除することに成功している。
自己排除プログラムは、ほぼ全ての先進諸国のカジノ施設において実践されている賭博依存症患者対応に関するプログラムでもあり、他の国と同様にわが国においても、制度的にこれを位置づけて、施行者に効果的な排除のプログラムや排除システムを開発させ、実践させることが必要であろう。尚、複数施設が実現されることが想定される場合、業界全体で対象となる排除者の個人情報をシェアし、どの施設であっても排除が有効に機能しなければ、制度としての価値は減殺されるため、施設間での協力・連携が大きな前提となる。