超党派議員連盟は、11月12日に開催される予定の総会において、最終的な法案条文の確定及び、実施法に関する基本的な考え方と今後の行動計画を取り纏める予定である。これに伴い、各党の党内合意手順を経た後に、今国会中にIR推進法案が上程されることが確実となった。IR推進法案の原案は、議員指導のもとに衆議院法制局が起案したのだが、これのみでカジノを含むIRが実現できることはないし、かつまた、以後何でもありの議論が始まるわけでもない。ゼロからの仕切り直しで、あたかも(この推進法が可決されれば)これから全ての枠組みを議論の対象にできる等という空想を主張している識者もいるようだが、これはありえない。刑法の特例措置となる新たな制度を創出することを実質的にトリガーすることになる法案は、慎重な手順に基づき、過去の各省庁との様々な協議を踏まえた了解の下に、国会に上程されるもので、中途半端な議論のままに、兎に角新たなカジノ賭博を認めさせる等という乱暴な考え方ではない。逆にこの推進法案は、これまでの国会議員による議論の枠組みと方針を国民に提示し、この一定の枠組みの中で、その実効性や課題をオープンに議論し、実施の在り方の制度的詳細を今後政府に詰めさせるという形に近い。この意味では、この基本的な枠組みが大幅に変更されるということはありえない。
プログラム法案と呼ばれるこのIR推進法案は、当初議員連盟が検討してきた法案を意図的に二つに分け、全体の枠組みを壊さずに、まず理念・方針を取り決める法案を策定し、この方針に基づき、国民的な議論と合意形成を喚起しつつ、より詳細な法案を制定するという二段階方式を取っている。即ち、全体の大枠の構図と青写真は既に存在し、この方針に基づき、あくまでもその詳細検討を政府に委ねるという考えをとったことになる。かかる事情により、IR推進法案の条文に規定されている理念、考え方の構成は、全て超党派議連が議論を積み重ねてきた法案の項目を反映する形で構成されている。一方、このIR推進法のみだけを取り上げ、国民的な視線で見た場合、どうこれが実施の枠組みに繋がり、実際の仕組みはどうなるのかという制度設計の考え方を理解できにくいと共に、課題や今後の議論の要素は何処にあるのかを理解することは難しい。議論が不十分でないのかとか、国民の懸念に対応できる制度的仕組みが考慮されているのかという反論は、プログラム法という方針や理念しか規定していない法案の性格から生じているともいえる。確かに、何らの説明も無い場合、今後、如何なる方向に議論が進んでいくのかが見えにくいことが、議論を拡散させたという側面もある。かつ、IR推進法案策定時点より実質的には2年間も議論が停滞し、その間、衆参両議院の選挙も2回あり、議員の構成が大きく変わったことにより、過去の経緯や法案の意図に関し、国会議員によるメッセージが伝わりにくくなってきたという背景もある。かかる事情により、IR推進法案を次のステップへと繋げるための基本的な考え方を再度取り纏め、これを議員間の合意事項として確認すると共に、IR実施法策定に向けての基本的な方向性を示唆する必要性が生じてきた。このために作成された書類が「IR実施法策定に向けての基本的な考え方」になり、22日の議連総会で合意される予定である。
この「基本的な考え」は、勿論法的な文書ではないし、あくまでも議員諸氏の考え方を取り纏めたペーパーでしかない。但し、かなり重要な書類になる。これは下記理由による。
✓ 如何なる考えで、IRの実現を図るのかという基本的な指針を国会議員が共有し、意思を統一しない限り、国民の理解を得られにくいと共に国会内での審議も通りにくくなる。
✓ 推進法案は、一定の枠組みの中で、どうあるべきかの詳細を詰めていく手順を取らない限り、議論は収斂できない。但し、全てをゼロから議論するわけではないし、過去と非連続な形で仕切り直しするわけではない。過去10年間に亘る超党派議連の考え方や関連省庁との議論のエッセンスを一定の方針として取り纏め、今後の議論を方向づけることになる。さもなければ1年という期間の枠組みでIR実施法を取り纏めることは不可能に近い。
✓ 1年という短期間でIR実施法を纏めるべきとする議員の意志は、あくまでも上記枠組みと方針の下での議論となることを前提とすることを理解すべきであろう。この枠組みの中での議論がこれから始まることになる。
IR推進法案は、議員立法である以上、可決された場合、法の有権解釈は国会議員にあると共に、法案作成に携わった議員の意志や意図は、尊重せざるを得ず、議員の考えは、今後のIR実施法案策定に関し、大きな枠組みないしは指針となる。この指針に基づき、詳細を詰めていくプロセスを取ることにより、初めてIR実施法案ができる。