公営賭博の萌芽は明治期に遡るが、戦後から現在まで続いている現在の制度自体は昭和20年代中庸から後半にかけて、地方公共団体の経済的疲弊や、朝鮮戦争特需後の不景気に伴う地方財政建て直しを背景に、自治体のための新たな財源を創出することにその本来目的があった(勿論Totoは例外で平成13年からのものだが、一般会計から予算計上できにくいスポーツ振興のために新たな財源を創出したという意味では類似的である)。そこで、地方公共団体を主催者・開催者として、特例的に公営競技を主催させ、この競技の帰結に係わる賭博行為を制度的に認め、賭け金の一定率を控除し、得られる益金を公益目的に支出する制度を設けたわけである(中央競馬は例外で、これは国が特殊法人をして主催せしめ、収益を直接国庫に納付させるという仕組みになる。また、宝くじは自治体が主催者となるくじ賭博で、Totoは国の独立行政法人が主催者となるくじ賭博となる)。高度成長期を通じ、国民が余暇や娯楽を楽しむ手段が限られていた時代には、公営賭博は人気を博し、財政的にも地方公共団体や関連する公的主体を潤すことになった。この安価な庶民の娯楽は不況にも強いといわれてきたのだが、ピークは平成3年で、その後は、地方公営競技は段階的に人気が低迷、売上も年々減少し、ピーク時の1/3以下に縮小した賭博種もある。中には、費用を収益では賄いきれない赤字状態に陥った競技や団体等も存在し、一部公営競技に関しては、開催権を返上する自治体が後を絶たないと共に、開催返上・閉鎖の岐路に立たされている自治体も数多いことが現実である。一方中央競馬や、宝くじは収益~費用の関係は相対的に堅調で、売上は減少してはいるが、まだ危機的な状況にあるわけではない。一時はつぶれるのではないかと想定されたTotoは何と、サッカーくじならぬ、単なる宝くじと何ら変わらない奇策商品(ビック、楽あて)で何とか持ち直しているという現実になる。
公営賭博の苦境は、主たる顧客層の高齢化、若い世代を惹きつける魅力の欠如、娯楽や余暇が多様化している環境における相対的地位の減少、競技やゲームとしての話題性や人気の欠如などの複合要因により、市場が段階的に縮小し、これに伴いその施行収益が趨勢的に減少しつつあることがその理由にある。もっとも、より重要なのは、納付金や分担金率は固定され、施行収益の多寡に拘わらず支払う法律上の義務があると共に、開催費用の高騰を抑えきれず、高費用の体質が継続しているという公営競技の実態にある。これでは売上ともいえる施行収益が減少した場合、費用を収益で賄いきれなくなる。経営的には所詮お上の商売となり、全く経営センスが無い儘に、準備金を使い果たし、費用を管理できず、収益も増えず、顧客も離れてしまったということであろう。高度成長の時代は、金の卵をうむガチョウともいわれていたのだが、今や卵を産むどころか、死にかけている。この状態を変えるため、平成19年に公営競技関連法体系の改正が実施され、様々な対処療法が措置されたのだが、焼け石に水となり、衰退、人気減の兆候はとどまる術がないといった処か。公的主体にとりリスクはなく、硬い営利事業とみなされていた公営賭博も所詮は営利事業であって、例え収益を上げていても最低必要となる開催費用すら賄えなければ、当然赤字になり、この場合には開催返上・閉鎖もありうる。本来パリ・ミュチュエル賭博は、税収を確実に確保するという意味では理想的な政策ツールになる。但し、これは、確実に一定の売上があり、かつ固定的となる費用をしっかり管理できるという前提が機能した場合に限られる。従い、市場の趨勢が成長段階にある場合には、全く問題ないが、不況期や市場の減退期に入ると、大きな問題を抱えてしまうことになりかねない。生き残るためには、費用の抜本的見直し、収益配分の在り方の変更、制度そのものの在り方の再考が必要となろう。旧態依然とした制度を抜本的に見直さざるを得ない理由がここにある。平成23年度に公営競技の問題が再燃し、平成24年度に更なる制度改革が行われ、一部公営競技に関しては、交付金額の実質的低減、還付制度の廃止、大臣指示権廃止と施行者による裁量権の拡大、対顧客払い戻し率75%以上を70%以上への縮減等かなり大胆な制度改革が実施された。但し、何らの経営改革の努力も負担もないままに、単純に対顧客払い戻し率を縮減する判断を公的施行者に委ねた場合、痛みがある経営改革等を実践する誘因は一切働かない。結果、顧客の負担により、公的施行者に対し、赤字補てんのばらまきをするに等しい。これでは時間の問題でじり貧になることは目に見えているといえよう。
尚、収益と費用の基本的な関係は公営賭博でもあらゆる賭博でも同じであり、ゲーミング賭博においても、例えば過剰投資に伴う借入金返済負担が大きく、収益で経費を賄いきれない場合、民間事業者が施行者である場合には、赤字も倒産もありうる。賭博事業の経営が傾く場合、過度の射幸心を煽る行為がなされたり、関連する主体が不正に染まったりしやすいという別のリスクが生まれることもある。健全な財務状況や健全な経営こそが、賭博行為自体を健全に保持する秘訣でもあり、これは公営賭博も民営のゲーミング賭博も同一である。