ゲーミング・カジノの法制度では誰が、どのように規制の対象になるのであろうか。基本は賭博行為に直接的、間接的に関与する個人、法人を問わず全ての主体が規制の対象になる。即ち、顧客のみならず、施行者並びに施行に何らかの形で関与する第三者も同様に規制の対象となる。一方、規制の範囲や深さのレベルはこれら関連する主体毎に大きく異なる。またこれは国によっても事情は異なる。この基本となる考え方とは、その対象に係るリスクの度合いに応じて規制の範囲と深さを変えるということに尽きる。通常の場合には、主たる規制の対象になるのは顧客ではなく、施行を担う主体になる。これは、民設民営の賭博施行を前提とする場合、賭博行為の公平性、健全性に係わるリスクは賭博に参加する顧客ではなく、専ら、賭博行為を顧客に提供し、施行する側にあるという考え方に基づいているからである。規制の目的は顧客が公正、かつ公平なゲームに参加できる環境と体制を作り、これを保持することにある。さもなければ、顧客は公平な扱いを受けられず、結局だまされるだけにおわってしまう。これでは制度に関する顧客の信頼と支持を得ることはできず、結局顧客はゲーミング・カジノから離反してしまうことになりかねない。顧客が被るリスクや損害・危害を防ぎ、安全、かつ健全にゲーミング・カジノを楽しむことができるようにする体制を保持する必要があることになる。ゲーミング・カジノを提供する側の行為に常に公正さ、公平さが確保され、当該主体の清廉潔癖性が担保できていれば、これは実現できる。この意味では、施行者に対する規制は厳格で、その参入要件は厳しく精査されるとともに、その行動は緻密な監視の対象になることが通例になる。これは企業としての施行者、その主要株主、経営者、主要管理職並びにデイーラー等の職員にまで及ぶことになる。例え一人による不法行為であっても、カジノのシステム全体を危殆におとしめるリスクがあるからに他ならない。
同様にゲームの提供に間接的にかかわりうる主体、たとえば機器、機材、システム等の製造業者、納入業者、カジノや顧客との間に入り、様々な関連付帯サービスを提供する関連サービス事業者なども、規制の緻密さは若干軽減されるとはいえ、全て類似的な規制の対象になる。これら主体が、何らかの事情により、ハウスないしはその職員と結託して機器、機材、システム等の改ざんを行ったり、自らの意思でかかる行動をとったりしたりすれば、やはり公正さ、公平さが確保されなくなり、顧客が不利益を被るリスクがあるからである。単に機器、機材、システム等の形式認証に留まらず、それを担う法人・個人の適格性を問うもので、かなり厳格な考え方になる。施行を担うことに直接的、間接的に関与する個人、法人はその各々が、その関与の程度に伴い規制当局からのライセンス(免許)取得が求められることになり、個別にその適格性が審査され、許諾され、かつ許諾後もその行為は、常に規制と監視の対象になる。
一方、来訪する顧客は、本来賭博遊興を楽しむために参加したものであり、善良な顧客であるとの前提に立つならば、これら顧客を厳格な規制や監視の対象にすること自体が適切な考えとはならない。制度は、顧客に対しては基本的には自由かつオープンで、規制としては資格要件(例えば未成年入場禁止)、一定の要件を満たす者の排除(法律上の欠格者、公共秩序を乱しうる者の排除など)や、ルールに則った場内秩序維持義務、賭け金行動に対する一般的規制などになる。この意味では、顧客に対する規制は、施行者に対する規制と比較するとあまり厳格なものではない。顧客に対する規制を強めることは、遊興施設としての楽しみを奪い、顧客を離反させる要因にもなりうるため、できうる限り直接的な顧客規制を限定するという考え方が取られることになる。但し、顧客の施設内での行為は、顧客が気が付かないままに、常に監視の対象となっている。
この様に、ゲーミング・カジノにおける規制の対象とは、①直接的、間接的にゲーミング賭博に関与しうるあらゆる主体になり、これらが網羅的に規制の対象になる(一種の産業規制として施行に関与しうる主体はその関わり方に応じて、規制の対象になる)。また、②これら対象に対する規制の範囲と深さは、関与する主体に係る潜在的リスクのレベルに応じて規定される(よって、顧客ではなく施行者、施行者の中でもチップや現金の取扱いを担う部署、直接顧客と対応する現場がもっともリスクが高くなり、より厳格な規制の対象となる)。但し、③顧客に対する規制自体は優れて限定さている(顧客にとっての規制はできる限りシームレスに、顧客が規制を認知しないレベルの内容が本来的には好ましい)ことになる。