ゲーミング・カジノの特色は、各国・地域毎に市場があり、各国・地域毎に施設が地理的に分散し、かつ各々に異なった制度が存在することにある。この結果、その市場の全体像を正確に把握することが極めて難しいという事情が生まれる。また、そもそも、賭博関連の諸統計そのものが完備されていない国も多い。また、ゲーミング・カジノの範囲のとらえ方も、国によっては定義が異なる。かかる事情により、統計のベースが異なる国毎の統計値はおおよそ把握できるのだが、世界全体で所謂賭博市場の規模がどのくらいなのか、その中で、ゲーミング・カジノはどのくらいのシェアを占めているのかという信頼おける統計はない。数少ない調査データであるPrice Waterhouse Coopers (PWC)によるGlobal Gaming Outlook 2012によると2011年レベルでのゲーミング・カジノの世界市場は1324.1億米㌦規模に達するとされている(所謂陸上設置型カジノのみが集計のベースになり、インターネット・カジノ、インターネット・ポーカー、スポーツ・ブッキング、ロッテリー、競馬等のパリミュチュエル賭博はこの数値には含まれていない)。内米国が595億㌦、アジア太平洋が470.4億㌦、欧州・アフリカ・中近東で161.8億㌦、南米40.9億㌦、カナダ55・97億㌦となる。リーマンショック後の不景気時には市場規模は全体的に一旦下降気味であったが、現在では、既に回復基調にあり、市場全体としては確実に拡大しつつある趨勢にある。2000年代後半以降は、アジア太平洋市場でマカオ、シンガポール等の台頭により、アジア諸国の市場が急速に拡大し、世界市場をけん引しており、2013年には、アジアは米国を抜く世界最大規模の市場に発展するといわれている。但し、これはあくまでも断片的な推定値でしかなく、実態を正確に反映した統計値であるとは言いがたい。
前述した如く、ゲーミング賭博施設の特徴は、地域分散性が強いこと、かかる理由により、国や地域により制度や背景なども全く異なるという事情があり、市場を把握するに際しても、異なった施設をどう類型化し、集計して、比較できるのかという実務的な問題がある。何をもってゲーミング賭博施設というのか、これに何を含めるかは地域単位ごと、国ごとにバラバラであり、同じ判断基準で全てを単純に集計できないし、これらをきちんと整理した上で集計した信頼おける調査結果はない。例えばスロット・マシーンのみを設置したスロット・パーラーをカジノと類型化する国もあれば、これをカジノ外の遊興施設と類型化する国もある。また、本来は、ゲーム種を特定して、課税前時点のハウスの粗売上(即ち顧客の純損失)を正確に捕捉すれば統計データ―はとれるのだが、残念ながら正確な数値は把握できていないのが実態となってしまう(一部統計はハンドル、即ち顧客の総賭け金で統計を推計している為に、全く異なった数値が、出てきている。あるいは企業の純利益を統計ベースとしている国もあり、統一性が無い)。また上記数字には国境を超えるサイバー世界のネット・カジノ等の売上は含まれていない。これは必ずしも信頼おけるデータが無いという理由によると共に、そもそもデータを把握し、公表している国自体が極めて少ないという理由による。また、顧客は地理的な国境と関係なく存在しているため、国単位の統計とは全く合わなくなってしまう。現実には存在するが、必ずしも全ての国において認知されているとは言いがたいこのサイバー世界におけるカジノは2008年レベルで既に173億米㌦規模の市場に達した(出所:EU委員会報告書)ともいわれており、最早無視できない巨大な賭博市場を構成してきている。年々二桁の率で市場が拡大しているともいわれているのだが、これを含めると市場はさらに大きなものになる。尚、カジノ外の賭博や類似的な遊技等をどう扱うか次第では、統計上、市場が大きくなったり、小さくなったりする(例えば、わが国では、パチンコ・パチスロは遊技であって賭博ではないのだが、諸外国の一部では、これを賭博と見なしている国もある)。これら様々な側面を正確に評価しない限り、純粋な市場規模を評価することは難しいということになる。
継続する現下の不況にも拘らず、世界のゲーミング・カジノ市場は全体としてみれば、拡大している。賭博行為は一定レベルまでは供給が需要を生み出すという背景もあり、たとえば今までゲーミング・カジノが認められていなかった市場において新たな制度が作られ、具体の施設が設置される場合、市場は確実に拡大する。不況時には、為政者が新たな財源を確保するために、新たな賭博種を導入したり、施設数を増やして、供給を拡大する兆候があることも、市場を拡大させている要因の一つになっている。かつ、サイバー世界におけるインターネット・カジノ等は世界を単一市場として、顧客を募っているのだから、供給が増えれば増えるほど当然売上は増え、市場が拡大するという結果をもたらしている。地理的に分散していたゲーミング・カジノは、技術の進展により、国境の壁を越えて市場を拡大させている。バーチャルな世界を含めると、その成長率はかなり高い。