ゲーミング・カジノ法制に関わる規制の本質とは、不断のリスク管理にある。即ち、①放置した場合、顕在化しうるリスクを未然に防止すること、リスクが起こりうることを抑止し、起こらないように配慮すること共に、②もしリスクが生じた場合、その影響をできる限り縮小化し、かつ③その帰結に関し、適切な修復や対応措置を図ることができることである。適切なリスク管理の仕組みが制度上規定され、それが実践されていれば、賭博行為に関する効果的なリスク管理は可能となり、起こりかねない問題を未然に防止することにより、賭博行為の健全化、安全化を図るという考え方になる。
このためには、通常の民間ビジネスでも採用されている実務手法としてのリスク管理手法の考え方を適用することが通例となる。ゲーミングに内在するリスクと当該リスクの深刻度や(もし、リスクが生じた場合の)影響度に着目し、このリスクをどう管理できるかの考えを制度の中に含めることになる。単純に禁止行為や罰則を定め、規制を定めれば問題は解決するとは考えず、関連主体による法規範の遵守と徹底的なコンプライアンスを求める。かつ、かかる主体による行為を監視し、厳格な法の執行を実施することになる。この考えを多層的、多段階で構成し、リスクを引き起こす主体にとり絶対ペイしない構図を作ることがその目的になる。悪事をなす者が、確実に悪事がばれ、かつ厳罰を課されることを理解し、割りに合わないと判断した場合、悪や不正、いかさま等には手を染めなくなる。犯罪や違法行為は未然に、かつ合理的に抑止できる。
上述したリスク管理を考える手順等の基本は下記になる。
即ち;
ⅰ. リスクを特定化する:
リスクのある場所、区画、リスクをもたらしうる主体、リスクの在り方をまず特定する。何処に、また如何なる主体に、どのようなリスクがあるのかを分析し、明らかにする。
ⅱ. リスクを評価し、対応措置を考える:
リスクの程度、リスクが起こりうる原因、頻度や確率、リスクが生じた場合の深刻度や影響度を評価し、これらに応じて、各々のリスク毎に管理・対応手法を考える。
ⅲ. リスクのある主体を関与させない:
個人、法人を問わずリスクのある主体、潜在的にリスクがありうる主体、及びリスクを引き起こしかねない主体は、顧客としても施行者としても、一切カジノには直接的、間接的に関与させない。かつ、過去かかるリスクを引き起こした主体、あるいは現在でもリスクを引き起こしかねないと想定される主体と何らかの関係や取引等があった主体も同様とする。参入規制を設け、参入できる主体を限定し、リスクのある主体を全て排除する。
ⅳ. リスクを引き起こす行為を規制する:
運営、ゲームの内容及びゲームを提供する手法等ゲーミング賭博に関するあらゆる行為、とられるべき手順等を規則として規定し、その遵守を要求する。
ⅴ. リスクのある行為を常時監視する:
リスクが起こりうる区画に関しては全域ビデオ監視を実施し、特定区域における関連主体の行為・行動を複数の目で常に監視する。また相互監視のシステムやチェックの体制を徹底化すると共に、作業手順等をマニュアル化し、逸脱がおこらないように配慮する。即ちあらゆる悪事や不正が露見しやすいように措置し、これを規則として遵守させる。
ⅵ. 事後監査を励行し、違法行為・不法行為の有無をチェックする:
規制局は、帳簿、運営に関するあらゆるデータにアクセスできるものとし、アクセスできるデータ及び映像等の記録を後刻、詳細定期・不定期の監査や検査の対象とし、規則からの逸脱や不法行為がなされていなかったかどうかを検証する。
ⅶ. 違法行為は厳罰の対象とする:
上記に伴い、法、規則等の違反・違法行為が露見した場合には、厳罰を基本とする。不正や違法行為の場合、これが露見しやすい仕組みを工夫すること、露見した場合厳罰に処されることが基本となる。
賭博行為は、顧客とハウスが存在して、初めて成立するのだが、上記で理解できるように、リスク管理の基本は顧客ではなく、専らハウスとその職員を対象にしていることが理解できる。不正、いかさま等の違法行為が生じるリスクの可能性は、施行する側の方がはるかに大きいからでもある。
尚、賭博行為のリスクは賭博類型毎に異なると共に、リスクが生じやすい領域や区域等も賭博の類型によっては大きく異なる。例えば内部に不正や悪が生じやすい賭博類型と外部に不正や悪が生じやすい賭博類型があると共に、管理の単純なリスクから、管理すること自体が複雑なリスク類型がある。公営競技などのパリ・ミュチュエル賭博は、内部では確かに八百長みたいなリスクが起こる可能性はあるが、賭けた金銭は賭け金支払時点でコンピューターにより捕捉されるため、賭け金をごまかしたりするリスクは不可能に近い。パリ・ミュチュエル賭博もゲーミング賭博も外部で、ノミ行為や闇カジノ等が生じるリスクは確かにあるが、これは外部にかってに生じるリスクでもあり、摘発を厳格にすれば対処できる。一方、ゲーミング賭博は実は内部のリスク(いかさま、不正、横領、脱税等)の方が、より重要なリスク管理の対象となる。かつまた人間が介在するテーブル・ゲームとスロット・マシーン等の電子機械によるゲームとは、リスクは異なる。当然のことながら人間が介在する方が、よりリスクは高くなるといえる。