一般的に一国が賭博制度を創出するに際し、法制度としての枠組みは国が創出することが基本であろう。一方、その中身の議論として、実質的にこれを規制し、管轄する主体を国とするか、あるいは地域(地方政府)にするか、国はどこまで何にどう関与すべきか、という課題はその国の基本的な選択肢になることが多い。米国や西独、豪州等の連邦制の国々では、そもそもかかる賭博行為を認めるのか否か、また認める場合には、どう認め、規制するかは(課税権の問題も含めて)あくまでも州政府(地方政府)の判断、管轄権になる。賭博施行は、本来地域の公共秩序や地域社会に密着した政策課題でもあるため、国が関与する課題ではなく、地域住民がその是非を判断すれば良いとする立場でもあろう。この場合には州法により法を創出し、制度や規制の枠組みも州(地域)単位で決めることになる。但し、米国では、特定の領域に関し、州際間に生じうる問題、共通的に国として対処せざるを得ない問題等は連邦政府の規制事項となる(例えばマネー・ロンダリング法制等)。オーストラリアやドイツでも、同様に、法的拘束力はないが、州際間での政策調整の枠組みが存在すると共に、共通的な政策事項に関しては連邦政府が関与する分野もある。カナダは連邦制だが、国法となる連邦刑法では賭博行為は原則禁止となっており、例外的に特定の賭博種の施行を州政府に認めるという枠組みを構築し、この中で州政府に制度制定も含めてその施行を委ねている。これに対し、連邦制をとらない諸国では、制度や規制の枠組みは国が創出し、同時に別途設置される国の機関が規制と監視を国として統一的に担い、地方政府に委ねないことが通例である。勿論これは、その国の一般法の仕組み次第で決まるのだが、世界にある実例には管轄権に関する様々なバリエーションがありうるとともに、一国内でも異なった制度がある国もある。状況を複雑化するのは、先進諸国いずれも共通なのだが、国が権限・予算を中央に集中する従来の中央集権の仕組みから、地方分権の仕組みへと移行しつつあることにある。この場合、国がなすべきか、あるいは地方に委ねるべきかは、その権限の在り方を含めていくつかの選択肢がある。
制度は国が定めるにせよ、一国にとっての基本的選択には、①具体の施行の細則規定、施行の許諾と枠組み、規制権限と監視権限を国ないしは国の機関が自ら担う、あるいは②逆に地方政府にこれら全てを委ねる、あるいは③権限を分散しつつ、国と地方政府双方が規制と監視を分担しながら担う仕組みにするという三つの方向性がある。ここでの大きな問題は、地方政府毎に規制と監視の在り方が異なる場合、規則が厳格でない地域、監視が甘い地域があれば、これが、悪や組織悪を誘引しかねないことにある。当然ながら法の執行が甘かったり、規制に隙間があったりするような場合には、悪や組織悪は甘い規制の所に集中することになる。よって、権限を地方政府に委ねる場合には、規制や監視の厳格さは国としての一定の統一的基準や、共通の考え方がない限り、施行の安全性・健全性を保持できなくなるリスクが高まるといえる。あるいは国としての共通的な枠組みや考え方が無い場合、効果的な規制が実現できなくなる可能性も高い。
尚、課税権を行使する主体の問題や公的主体間における施行収益の分担の問題もこれら国、地方政府(州、市町村などの下位の行政主体、施設が設置される基礎的自治体と周辺自治体など)による様々な分担の枠組みが存在し、必ずしも一様ではない。制度や規制の枠組みを国が地方政府に委ねる場合には、当然施行行為に対する課税権も移譲することが前提となるべきとなる。米国、カナダ、西独等では連邦政府には課税権は無く、税率の設定から税徴収、税の分担に至るまで全て州政府の管轄業務になる。もっともゲーミング・カジノは本来顧客に対するサービスの提供である以上、国はゲームに対する特別課税はしないが、その売上に対し、付加価値税(物品サービス税)を課すという形で、課税権の根拠を国と地域で仕分けしている国もある(例えば豪州等で、連邦政府が施行者の売上~総粗収益~に対し物品サービス税を課し、州政府がやはり総粗収益に対しゲーミング税を課すという考え方だが、税種を変えることで、国と州政府がすみわけをしていることになる)。税収の配分も、①上位の公的主体が一括して徴収し、法定率に応じて配分する、②複数の公的主体がバラバラに徴収する、③下位の公的主体による徴収は一定の上限を設けて率の設定と共に任意とする等、様々な考え方が存在する。
わが国の立法府で現在考えられているカジノ法案においても、この管轄権と課税権の問題は議論を呼ぶ可能性がある。地方公共団体や地域を主体とする制度的枠組みを構築するならば、管轄権も、課税権も当然地方公共団体にあり、国ではないとする根強い地方分権論には、一定の合理性と説得力があるからである。また、政治的にも道州制を睨んだ場合、権限と財源を国から地方に委譲するにはうってつけの素材となる。但し、権限と財源を地方公共団体に移す場合には、業務的にはかなりの負担を地方公共団体が抱え込むことになり、その遂行には、専門的な能力や知見も必須の要素となってくる。この場合、地方公共団体にとってのガバナンスが問われることになる。