ところで施行に関与しうる主体の適格性を審査し、免許(ライセンス)を与え、その運営を規制し、監視する制度的枠組みや規制や監視に関与する行政機構はどの様な主体で、どのような仕組みでこれを実践するのであろうか。また複数の主体が絡む場合、全体の関係性はどうデザインすべきなのだろうか。国により、行政機構のあり方や治安維持の手法は大きく異なるのだから、必ずしも共通解というものは無い。但し、あるべき共通の基本概念の如き根本の考え方は存在する。これらを考慮しながら、一国の事情をも加味しつつ、制度設計をすることになる。
例えばこれら共通点には下記がある。
① 規制を担う主体は単純な許認可判断のみを行う認可行政の機能や役割をするだけでは不十分で、多様な役割期待と所管すべき日常業務がある。ゲーミング・カジノの規制、監視を実施するためにはかなりの専門性や特殊な知識、権限を必要とし、また独自の行政機構を必要とする(例えばわが国の既存の省庁が片手間でできる業務ではありえない。これは単純な認可行政では無いからである)。組織の規模は付与する機能と権限及び業務の所掌範囲・業務量次第であろう。
② 法は基本を押さえるが、全てを規定できない。規制や監視の在り方はかなり詳細化、複雑化せざるをえず、専門的な規制機関に詳細規則を定める権限を付与し、これに委ねることが適切であろう。法は規制と監視の基本と組織等の基本的枠組みを定めるが、実際の運用に関する詳細規則制定は、規制機関にその制定を委ねることが合理的な考えになる。
③ 新たな賭博種の開発や機械、システム、技術の進展などにより、運営の在り方や規制の在り方は不断に変化、発展している。あるいは変えないまでも、規制の在り方は固定的ではなく、柔軟性を保持し、時代や環境の変化に適合できることが好ましい。これが可能となる規制の仕組みと行政機構である必要がある(さもなければ、技術の変化や市場の変化に柔軟に対応できなくなる。既存の行政機構をそのまま活用することが難しい理由がここにある)。
④ 規則を制定し、判断基準を定め、運営者やその構成員、様々な関与する主体の審査、許諾、認証あるいはその停止、はく奪等を判断する規制機関には強力な権限が付与される。この規制機関と法の執行を担う主体(公安・警察機構)を峻別し、明確に役割と機能を分けることを基本とすべきであろう。権力を分散化し、集中化させないのは癒着、腐敗、汚職などを避けるためである(行司が相撲をとる仕組みは必ず問題を引き起こすことになるからである)。
⑤ 許諾を担う規制機関に、許諾に関わる不平・不満等のクレーム処理を委ねる形で、一種の準司法的な機能をも委ねることがあるが、これは国毎の事情により大きく異なる。一方、かかる規制機関は、強力な権限を保持し、許諾や認可の専権を保持するため、政治的、行政的な影響を受けない存在としてその組織と権能を考慮すべきである(これも癒着や腐敗などの可能性を断ちきるためである)。
⑥ 法の執行を担う機関(公安・警察機構)は規制機関と協働し、厳格に法の執行を担うことになる。運営の監視、検査、監査等は規制機関が担い、許諾に必要な背面調査や、審査の実務行為、また違法行為摘発は法の執行を担う機関がこれを担うという役割分担が通常である。但し、両者の所掌分担や権限の在り方には、様々なバリエーションが存在し、必ずしも画一的ではないことが現実となる。
⑦ 政策的に、地域や地点を選定したり、一定地域をゾーニングし、ここにゲーミング・カジノ施設を設けるなどの考えは、どう施設を運営したり、規制したりするかとは関係なく、優れて、政治的判断を必要とする事項となる。よって、規制機関や法の執行を担う主体がこれに関与することは好ましくなく、地域・地点の選定は別の枠組みがこれを担うことを法手続き上考慮することが必要であろう。
⑧ 制度的に主務官庁は必要となるが、政策に関する主務官庁と、実際の施行の詳細規制や運営の監視を担う国の規制機関を峻別し、後者は省庁からある程度独立した地位を与えられる国の機関がこれを担うべきである。政策事項などに主務官庁は関与しうるが、専門的な機関が規制機関としての役割を担い、かつ専門的に法の執行を担う機関がこれを支援し、違法行為を摘発するメカニズムが好ましいといえる。
勿論上記はあくまでも、大きな枠組みとしての基本的な考え方になり、ここから個別の国の事情を斟酌しつつ、制度設計を考えていくことになる。現実的には各国毎に、多様な規制の在り方が存在し、実践されている。何が適切かは、個別の国毎に事情は異なることになる。