規制機関とは法の定めにより設置される国ないしは地方政府(州)の機関になり、ゲーミング・カジノに関わる規則を制定し、関連しうる民間主体に対し、様々な免許・認可・認証の申請を受付け、審査し、これらを付与したり、申請を拒否、または免許・認可等の停止・剥奪を判断したりする役割を担う。米国等では、この規制機関は有識者より構成される行政委員会で行政府の長(州知事)により指名され、議会の認証を得て任命される。常勤の場合もあれば、非常勤の場合もあり、通常任期は3~5年で、法律、会計、公安等異なった分野の奇数名の専門家により構成される。権限や機能としては、例えばわが国の国家行政組織法に基づく3条委員会に近い。即ち、審議会ではない行政委員会で、一定の行政権限を保持し、その構成員の立場が法により保証される国の機関となる。これは、やはり行政府、立法府から干渉を受けない中立的な立場であることが必要とみなされているからである。
米国では、この規制機関は通常、独立した州政府の機関として位置づけられ、その権限は基本的には①ライセンス(免許)の付与と停止・剥奪に関する権限、②ライセンス付与に関する不満等に関する公聴会開催とその最終判断、③ゲーミング・カジノ施行に関わる詳細規則の制定権、④使用器具、機材、機械等の技術標準設定や形式認証等全ての認証・認可権、⑤異議申し立てに関する公聴会開催とその最終判断、⑥違法・違反行為に対する罰金・罰則の賦課権、⑦ゲーミング税、ライセンス料その他関連する公租公課の徴収権、⑧カジノ施設の監査、検査権など広範囲に亘る。この委員会は、固有の事務局機能と組織を持つ場合もあれば(例:ニュー・ジャージー州)、法の執行を担う当局が委員会の事務局機能を兼ねる場合(例:ネバダ州)もある。前者の場合、規制機関と法の執行を担う機関は異なり、お互いが拮抗する並列型組織構造になる。後者の場合、権限と判断は規制機関となる委員会が担うが、規制と監視の実務は委員会の事務局機能を含めて法の執行を担う組織が業務を担う二層構造型組織構造になる。いずれもガバナンスの在り方を工夫し、中立性、公平性を維持できる仕組みを設けることになる。
もちろん、これは米国固有の制度的事情が加味されているため、全ての国々で適用できる考え方ともいえない。但し、①規制機関の担う業務はかなり専門的かつ、公権力行使の側面を含む強力な権限を保持していること、②単純な許認可行政の主体ではなく、積極的に規制やルールを設け、施行の在り方を規制していく主体であることなどが特徴的で、これらは他国においても類似的な側面があるといえる。また、規制機関は、様々な状況変化に対応して柔軟な対応を迫られることがある(ゲームの進化や機械、技術、システムの革新、悪や組織悪に対する機敏な対応なども含めて、全てが制度化されているわけではなく、規制機関のルールメーキングや判断、実務規則制定などが臨機応変に求められることがあるからである。市場は固定的ではない。これが為に、規制の運用の在り方も本来柔軟に市場の動向を踏まえつつなされることが好ましい。但し、何を制度として取り決め、如何なる裁量性を規制機関に付与するかに関しては、現実のニーズに合わせ慎重に決めることが必要である。一方、権限の乱用が起こる可能性もないわけではなく、権限主体の判断基準や行動基準、権限範囲が明示的に規定されていることが好ましいといえる)。かつ、新規参入する主体の審査、既存の免許取得主体の継続的審査、違法行為摘発、調査分析、機械・システム基準対応など機能はかなり複雑になることもある。尚、現代社会では、投資家も運営施行者もかつ顧客も、グローバルな環境の中にあり、犯罪防止や抑止の枠組みは国際的な視野での各国規制機関同士の連携・協力が必要な状況が生まれている。これも規制機関が果たすべき役割の一つでもあろう。
政府から独立した機関に権限を委ね、規制の任に当たらせるというのは世界各国共通の考えである。もっとも、①規制当局と法の執行を担う当局との関係(権限、所掌、、役割分担や関係性のあり方)、②委員会の準司法的機能のあり方等に関しては、国や地域では異なる側面もある。このうち後者に関して言えば、例えば米国の考えは、ゲーミングに関しては全ての規制、許諾、許諾に関する準司法的判断、税徴収までも含めて包括的に規制当局に権限を付与し、ここで全てが完結する手法をとる。即ち一般法の特則として、通常の行政手続きや機関を使わず、特定の機関に全てを集中する考え方になる。これはかなり異例の措置でもあり、必ずしも他国で模倣されている仕組みではない。かかる考え方が合理的か否か、全ての国に通用する考え方と言えるのか、また、既存の行政機構や行政システムをより効果的に使えるのではないか等は、国によっても事情が異なることになる。