予め政策や制度で施行を担う地域を特定せず、かつ全体の施行数を限定する場合、どの地域を指定し、カジノを実現するかが大きな政治的、政策上の選択肢となる。地域を指定する主体は国であろうし、カジノの誘致・実現を図り、地域指定の提案を担える推進主体は、やはりその施設が設置され、主たる恩恵を被ることができうる基礎的な地方政府(地方公共団体)であろう。勿論その後ろには、実質的な投融資を支え、事業を担う民間主体が控えて、これをサポートしているという構図になる。民間主体に地域を選定させることを前提にした場合、経済合理性が先行し、必ずしもカジノがもたらす地域への効果とか、社会政策上の諸課題も考慮されないことがありうる。かつまた、地域社会で反対運動が起こりうるリスクも否定できない。地域社会の意見や政策を纏められる主体は、この意味では、地方公共団体以外には無い。地域経営を担う地方政府であるならば、一定地域の観光政策、社会政策の中で、ゲーミング・カジノ施設の明確な政策的位置づけや地域開発との関連性を定義できると共に、議会・市民対応や合意形成なども地域単位でなされることにより、大きな政策的課題を可能な限り解決できることになる。但し、公共工事の箇所付けの様に、地域指定に際し、政治家が影響力を行使したり、汚職や賄賂などが起こったりしない仕組みと透明性の高い指定手順が必要であろう。地域指定と事業者選定を同時に行う可能性もあるが、この場合、手順を余程透明化しない限り、地方政府と事業者とが癒着するリスクが高まる。よって、基本的には地域選定の問題と、その地域における事業者選定の問題は切り離した方が好ましいといえる。まず、地域指定を先行し、主催する地方政府を指定する。その後に、指定を受けた地方政府が、開発を担う民間事業者を公募による競争により選定するという二段階の手順になることをこれは意味している。
この二段階手順により、まず地域を選定し、その後当該地域に民間事業者を選定させるという手法は、2007年英国にて実施された。地域選定に関しては、独立性の高い第三者委員会により透明な審査や評価、選考がなされたが、最終段階で、英国貴族院にて、地域選定に関する与党議員の造反が起こり、結局これが政府の方針変更に繋がり、大規模カジノ施設推進は中止となり、現在に至っている。一方、オーストラリアの各州やシンガポール等では予め施行数を限定し、かつ予め地点も取り決め、一定の地域再開発計画の中で明確に位置づけされた地域開発事業として民間事業者を公募し、選定する手順をとった。米国の一部州でも類似的な手順・手法が取られている。フランスでは、法的に一定の要件を満たす地方政府のみに施行が認められており、まず地方政府が公募によりその地域内の一定地点を前提に、民間主体を選定する。その後、地域内部の合意形成を経て、地方政府・民間主体が国に許諾を申請、国がその可否を判断し、許諾された場合には、地方政府に差し戻し、地方の議会認証により初めて民間主体が選定され、かつ免許が交付されるという複雑な手法になる。国と地域の判断や手順をうまくミックスさせ、バランスをとるという考えであろう。
カジノを一定の政策目的を達成する為の施設と定義し、地域や民間事業者を選定する手法には、この様に様々な考え方がある。この内、地域指定に関しては、下記を考慮する必要がある。
① 地域指定の課題は優れて、政治的判断を要する事項でもあり、法によりその選定する手順や判断基準を取り決めることが好ましい。
② 地域指定(地方公共団体の選定)と民間事業者の選定には、様々な組み合わせ方があるが、これらを切り離し、地域指定を先行することが、より現実的かつ合理的となる。
③ 地域指定の判断は、規制する主体や法を執行する主体とは利害関係の無い中立的な主体が関与し、透明かつ公平な手法で指定の判断をすることが肝要であろう。政治的恣意性や、行政府による箇所付けなど不透明な手順をできる限り避けなければ、選定されなかった地方政府等の不公平感や不満が残るためである。
④ 地域指定の申請に際し、例えば議会同意あるいは住民投票等何らかの形で地域社会における合意形成取得を手順として組み入れることが好ましい。住民が反対する中で、為政者が強行して施設を実現する場合があるとすれば、かかる施行は確実に失敗するリスクが高まるからでもある。
⑤ 地域指定の判断基準は、一定の規範の下に、予め定めておくことが必要になるが、大都市や地方都市とでは、環境も背景も異なり、同じ判断基準で比較検討することは必ずしも適切ではないとする考え方もある。政策的に如何なる施設が要求されるのかという軸足が定まっていない限り、実務的に混乱が生じる可能性もある。