カジノの実現を考えるに際し、二段階で施設整備の実現を図ることが米国やカナダの一部施設では実現している。これは、当初は暫定施設(Temporary Facilities)を立ち上げ、あくまでも暫定的に既存の他の用途施設の改修等により短期間に仕上げる簡素な施設で、素早く運営を立ち上げることを目的とする。一定期間の間、この暫定施設で運営を行い、この一定期間の収入を配当せずにエスクロー勘定等に溜め込み、これを積み立てたのちに、この資金をも一部利用する形で恒久施設(Permanent facility)の資金調達と施設整備実現を図るという考え方をとる。ゲーミング・カジノ施設の整備に関しては、規制当局や地方政府が一定の条件を賦課したり、公募の要件として、一定の大きな投資へのコミットメントを要求したりすることが通例となる。この公募の前提として、上記のような二段階による施設整備手法が予め認められている場合もあれば、公募の過程で交渉により、かかるアプローチが認められることがある。
なぜかかる二段階の手間をとるのであろうか。これは下記理由による。
① 当初からアメニテイ―施設やコンベンション施設等の様々な付帯施設を併設するカジノ施設である場合、資本金・借入金共に巨額の資金調達が不可避になる。まず暫定施設から始め、確実に市場があり、事業性があることを確認し、ある程度の資金蓄積の後に、恒久施設としての複合施設の資金調達・整備を始めることにすれば、事業者にとっての負担は軽減する。これにより参入障壁を低くし、競争を喚起することができる。
② 事業者は限られた資本から実際の事業をあくまでも段階的に立ち上げることができる。成功を確認しながら、巨額の至近を必要とする恒久施設の実現を資金調達を含めてチャレンジすることができる。
③ 初めてカジノ施設ができる国や州の場合、必ずしも当初から成功が約束されているわけでもなく、巨大な投融資規模が前提となる場合、融資金融機関は前例がないため、リスクが高すぎるとして、あまり資金を貸し出さないケースもまま存在する。そこで資金のかからない暫定施設を資本金を元手に短期間の内に実現することにより、具体の集客を実施し、一定の需要構造が地域に存在し、かつ安定的なキャッシュ・フローが暫定施設から生まれることを検証することができる。これにより金融機関による恒久施設への巨額の融資のハードルを下げることができる。
④ 関係者の目的は、恒久施設としての様々な付帯施設を含むものである以上、暫定施設はあくまでも仮の施設として、この努力の全てが恒久施設に繋がる仕組みが当初から考慮される。即ち、暫定施設の収益は、費用控除後、全額エスクロー勘定に積み立て、配当の対象とはせず、全て恒久施設整備の前金等の一部として支出することが前提になる。平行的に恒久施設の整備の準備がなされ、一定期間後、着工され、恒久施設の整備が完工した時点で、暫定施設は原状復帰して元の施設に戻すか、破棄されることになる。
⑤ 政府にとっても、早期の立ち上げは、早めの税収の実現につながるが、大規模の施設ではない以上、税収規模も限定され、かつこの場合、暫定施設レベルでの運営に対する粗収益課税率と恒久施設レベルでの運営に対する粗収益課税とは税率が異なるという仕組みもありうる(事業者に対するインセンテイブを向上させ、早く恒久施設を立ち上げさせるためには、暫定施設段階での課税率はある程度低く設定しおくことが合理的になる)。
⑥ 但し、暫定施設といってもテント等の施設ではなく、既存の商業施設を賃貸・貸切り、これをカジノ施設に転用したり、様々な産業施設の改修等によりカジノ施設を暫定施設としたりして実現するなどの工夫を凝らしており、米国等の実績では、かなりの投資額を必要とするもので、「暫定」とはいえないしっかりした施設が暫定施設となっている。また、暫定施設であるがゆえに、規制や監視の厳格さを妥協することはありえず、この分野での事業者の負担は、完璧な整備と体制が十分にできていない段階での運営になるために、逆に負担が増えることもある。また、恒久施設の実現が本来の目的である以上、民間事業者側に追加的な保証や親会社保証等、確約を遵守する担保が求められることに繋がる。
上記のような暫定施設~恒久施設という二段階での施設実現は、ミシガン州の三つのカジノ施設の実現に際して用いられた。当初の暫定施設は、旧歳入庁(税務署)のビルの改修や、パン工場の改修により実現したものだが、かなりの工夫を凝らしており、指摘されなければおそらく暫定か否かは分り難い施設でもあった。数年後の暫定期間を経て、現在ではこれら施設は恒久施設にとって変わっている。カナダ・オンタリオ州の、ナイアガラ・カジノも同様に、当初はナイアガラ瀑布の至近距離にあるデーパートを全面改修し、暫定施設として運営し、数年後に、丘の上の巨大施設を恒久施設として建築した。これはスポンサー・シップを取ったオンタリオ州の公社が、全体費用を縮減し、段階的に暫定施設で実績を積みながら、恒久施設の整備・資金調達をも考慮して、暫定施設から始めるという考えを取ったことによる。