民間施行主体の財務会計上の透明性と健全性を保持することは、ゲーミング・カジノ運営の健全性と安全性を担保するためには極めて重要な事項になる。カジノ事業が会計・財務的に健全であるということは、①運営行為に不正、いかさまがなく、健全な財務・会計システムが機能していること、②事業に投入される資金が犯罪組織や悪とは関係のない健全な資金源であること、③事業性に無理がなく、事業そのものが財務的に健全であること、またこの健全性が常に維持されていること、④事業に必要な投融資が過度なリスクを抱えるものではないこと等を必要とする。この内、①、②は事業の前提としての絶対要件でもあり、これが確保されていなければ、施行の健全性は問題外になる。健全かつ十分な資金があり、初めてカジノ施設は実現できるし、機能する。もし、当初の資金が不正なものであるならば、マネー・ロンダリングのリスクがあることになる。③が重要なのは、カジノ事業の財務状況が健全でない限り、過激に射幸心を煽る行動に出たり、必要に迫られて、施行者が悪の資金に手を染めたりする行動をとる理論的リスクが高まるからである。結果としてかかる行動が財務上の不健全性をもたらすことになりかねない。
財務関連諸規制は実務的に多岐にわたるが、規制機関が事業者による運営の全容を把握できる情報を取得できること、かつ事業者の財務会計上及び関連しうるあらゆる行為が規制の対象となることがその前提となる。この意味では規制の対象は、通常の産業と異なり、微に入り細に亘る。また、常時運営行為が、監視の対象になるという意味では、経営上の「自由度」には一定の制約もあることになる。
下記はその主要項目である。
ⅰ. 財務情報等報告義務:
監査人による監査報告と共に、四半期、年度毎に規制機関に対し詳細事業報告及び会計報告が義務付けられる。また規制機関は、事業者ないしはその監査人に対し、必要な追加情報を請求できる(事業者の同意取得を必要としないとする規定が存在する場合もある)。
ⅱ. 定期・不定期検査・監査規定:
一定期間毎に規制機関による詳細な事業検査・監査が実施されると共に、規制機関が必要と判断した場合、随時、検査・監査を実施できる。
ⅲ. 内部管理手順規制:
金銭等事務管理手順を主体とした内部的な組織体制管理等であり、全て規制当局の認証を受けることが通例となる。会計規則や売上計上基準等もかかる認証項目の一つである。
ⅳ. 制限取引、取引報告等規制:
一部商行為や取引相手、借入行為は取引規制の対象になるとともに、一定規模以上の第三者取引は規制機関に対する報告や契約に係わる認証取得、あるいは契約書の提出義務等が必要になることがある。
ⅴ. 現金取り扱い規定:
基本的には総売り上げを確定し、課税対象額を捕捉するまでの現金取り扱い手順になり、徹底的に手順を透明化し、厳格な監視、検査、監査の対象となることが特色となる。これには例えば下記等がある。
① 現金チップ取り扱い手順等の取り決めと認証(金銭等のやり取り、移動手順等になるが、これら行為を紙に残し、どう金銭等が動いたかを記録にとどめる~ペーパートレイル~、金銭・チップの物理的保管や移動に関し、相互監視の体制をとることなど)
② 課税対象基準設定手順(売り上げを確定し、税収の対象額を確定するまでの手順でもあり、不正に課税回避がおこらないような全ての配慮と措置になる)
ⅵ. 与信行為取扱い規定:
顧客に対するハウスによる与信行為、預託勘定等に関しても詳細手続き規定が規制機関により定められることが通例となる。
ⅶ. トークン、チップ、カード等製造、保管、使用、破棄手順:
すべて金銭と同等の使用並びに保管に関する取り扱い基準が定められるとともに、破棄手順も詳細に規則により定められる。
ⅷ. 財務取り扱い手順:
資金借り入れ、証券発行等企業の資金調達等に関する要件、手順、規制項目等を定義する。
ⅸ. 資金調達等の健全性確保手順等:
健全な資金がカジノに入り、初めて健全な運営ができる。かつカジノから出る資金も健全な用途に支出されることが全ての前提になろう。不正な資金がカジノに入ることはありうるため、例えば施行者が施設整備の為に調達する資金が、健全な資金ソースか否かのチェックが必要になる(犯罪資金が借入金ないしは出資金の一部であったとしたならば、後刻、カジノは犯罪組織に牛耳られるリスクが生じてくる)。
上記は規則等の主要部分にすぎず、規制機関が定める細則により、更に詳細な規制が定義される。これにより、事業者の財務会計実務は完璧に規制機関に捕捉されることになる。