マフィアややくざ等の組織暴力団の存在は、現代社会の病巣でもあるが、この存在を否定することはできそうもない。現実社会に彼らは見えない形で存在する。また麻薬、売春、博打等のこの世の全ての悪(?)に、これら組織暴力団が関与し、かかる行為が彼らの重要な活動資金源になっているとも言われてきた。だからこそかかる行為は、全て禁止すべきという声も強い。確かに、米国に見るまでもなく、我が国においても歴史的には、組織悪がかかる犯罪に直接的ないしは間接的に関与してきたことも事実であったのであろう。但し、間接的であったり、裏の行為であったりした場合には、犯罪行為の摘発は単純にはできなくなってしまう。一方、これら組織が生きていくための資金源を、もし完璧に断つことができれば、違法行為はかかる分野ではまずおこらなくなる。また、時間の問題でこれら組織暴団は存在できなくなる。組織悪を惹きつける誘因を一切排除し、物理的にこれら組織悪や暴力団関係者がカジノ場に立ちることができない完璧の防御を張ることができれば、カジノは暴力団とは関係の無い存在になる。犯罪を摘発することも当然重要ではあるが、まずしっかりとした制度を構築し、その遵守を厳格に監視し、違法行為に厳罰を課すことにより、一定の領域から、かかる組織暴力団を排除することが可能になる。闇カジノ等の違法行為が存在するのはそれに惹かれる一般顧客が存在するからでもあり、これら顧客を違法領域に行かせない動機づけや誘因をうまく働かせれば、善良なる顧客はまず危ない世界には足を踏み入れないものでもある。ゲーミング・カジノ法制はこのためにある。
米国において、1931年以降、実質的に米国ネバダ州のみで行われていた商業的なゲーミング賭博行為にマフィア組織が着目したのは、現実のカジノ経営は小規模、個人経営を基本としたため、裏の資金力でマフィアが介在したり、制御がしやすかったりしたという背景もあったのだろう。事実、第二次世界大戦後のラスベガスにおけるリゾートカジノ・ブームの端緒は、マフィアによる資金源によるものでもあったし、1950年代に段階的にマフィアがかかる賭博行為やカジノに組織的に介在することになり、これを犯罪の資金源にしたという事実がある。1960年代から1970年代における米国ネバダ州やニュー・ジャージー州における様々な制度構築とその実践は、カジノから、これらマフィア組織を徹底的に排除し、ゲーミング・カジノを健全化するための試みでもあった。制度を設け、規制機関が詳細規則を制定し、法や規則を厳格に執行することでこれを実現したのだが、株式会社~上場企業~のこの分野への参入を可能にした制度が、組織的な大規模投資の実現やこれに伴う金融機関の参加が更なる透明化とマフィア組織の排除に貢献することになった。この結果80年代末以降はマフィアの痕跡は米国のカジノ業界からはなくなったともいえる。
では具体的に如何なる施策が取られたのであろうか。
ポイントは、①リスクのある主体(個人、法人)を特定化し、これらを近づけさせない、カジノに入れさせない、一切関与させないこと、また②過去、現在、将来に亘り、直接的、間接的にリスクのある主体と何らかの関わり、経済的行為などに関与した主体を排除すること(あらゆる潜在的リスクをもたらしうる者の排除)にある。この為に、③この業に関与しうる者の参入をライセンス制度により厳格に規制する(全ての申請者に関する詳細な背面調査、リスクある者の排除、企業の場合には5%以上の有効株式を持つ株主、経営者、管理職、関連しうる職員全員になる )、④ライセンスを与えた後でもその行動を常に監視し、不正行為を抑止する、⑤全てのカジノ場における行為を映像記録でとり、トレースし、誰かが常時監視する体制をとるなどの手段をとることになる。厳格な手段を取るのは、マフィアや組織暴力団は単純に表だけではなく、裏に入り、経済的利権を支配すること等がありうるからである。例えば、人間の弱みにつけこみ、ここから通常の人を不正や犯罪へと誘いこんだり、表はきれいな資金でありながら実態は犯罪資金が形を変えて、カジノに入りこんだりするなど巧妙な手口がなされるリスクがあるわけで、カジノに関与しうる個人や法人の財務状況や資金や財産の背景を詳細に検証し、不適切な主体を排除することが防備に繋がることになる。この為の詳細申告の内容とその背面調査は他の産業には類を見ない程厳格な内容となる。
これでは、組織悪は身動きしようにもできず、結局資金の根幹を断たれることになり、段階的に資本を手放し、この業から撤退していったことが歴史的事実になる。これを代替したのが、健全な大企業であり、投資家でもあった。経済的メリットがなければ、マフィアや組織悪が介在する価値はなくなり、確実に撤退するという考えに基づいた諸施策でもあったことになる。