カジノも通常のビジネスと同様に、対顧客営業戦略があり、マーケッテイング戦略がある。またこのためのツールもある。一方、ゲーミングもその本質が賭博行為である以上、一部のマーケッテイング・ツールに関しては一国の事情次第では規制の対象になることがある。この状況や制度のあり方次第では、顧客にとりカジノの魅力が高まったり、減ったりする。
① ジャンケット規制(エージェント規制):
ジャンケットとは、本来専らゲーミングをする目的のために旅行し、カジノを訪問する顧客グループ(ないしは個人顧客)を呼称した用語である。これを手配する者をジャンケット・レップと呼称する。これらグループないしは個人がカジノを訪問するための旅費、宿泊費等(内容は状況に応じて変わる)を一種のマーケッテイング費用としてカジノ・ハウスが負担する仕組みとなり、ジャンケット・レップに対しては通常顧客の賭け金支出総額に応じて、コミッションが支払われる慣行が定着した。現代社会ではこれが更に発展し、ジャンケットとは、個人ないしはグループによるVIP顧客(ハイ・ローラー)をカジノに呼び込むための集客業務と顧客に対するサービスの提供を担うエージェント業として各国で認知されている。カジノは各々の顧客を格付けし、これに応じてジャンケットに対するコミッションあるいは顧客に対するコンプやリベートを判断する。ジャンケットは、ハウスにとっての貴重な営業ツールでもあり、その担い手は一種のハウスと顧客に対するサービス提供事業者になる。かかる事情により、ジャンケット運営事業者及びその構成員は規制当局の認証とライセンス取得の対象となり、他の主体と類似的な規制の対象になる。
② コンプリメンタリー・対顧客リベート規制(対顧客還元サービス規制):
コンプとも称し、顧客の賭け金総額の内、顧客損失部分の一部を何らかの物品、サービス、食事、現金等により、顧客に対し、還元するサービスをいう(損失額の一部がモノやサービスという形で戻るわけで、これがカジノの面白さの一つにもなっている)。米国では長年連邦内国歳入庁(IRS)より、かかるコンプは接待費と同等で所得税として課税すべきではないかという指摘と、これに伴う業界との論争が存在し、例外的に現状は過去の非課税の慣行が続いたままになっている。これは米国における特殊事情ともいえるが、顧客にとってみれば、例え勝てなくても、一種のキックバック的なホテル代や食事代、エンターテイメントチケット等のサービスを無料で受けられるということはカジノの面白さの一つになる。但し、この扱いは全ての国において同等であるとは限らない。課税の対象になるかならないかで、顧客に対するサービスの内容及び質は大きく変わってしまう。もし、課税の対象になれば、ハウス側の負担が大きくなり、確実にサービスが低下することをこれは意味している。米国のカジノ施設においてコンプが派手で、顧客もこれを期待できるのは、かかる慣行としての税制上の恩典が存在するからに外ならない。(尚、ネバダ州では州課税委員会が2012年7月よりコンプに基づく顧客に対する食事提供に対し州税となる付加価値税を課すという決定を下し、カジノ・ハウスや関連飲食事業者も交えた法廷闘争が始まっており、米国でも事は単純ではない状況が起こりつつある)。
③ プロモーション、トーナメント規制:
カジノの施行者は、営業的なプロモーションを目的として、特定の顧客を招待し、参加料をとって、経費を除いた部分を賞品にしたりする形で、勝ち抜きトーナメント方式でゲームを展開するイベント等を実施することがある。個別イベントやトーナメントは集客の為の効果的なツールにもなるが、全て規制当局の認可、認証を必要とする。例えば人気の高いポーカー・トーナメント等は高い参加料を徴収し、費用控除後の残金をプール化し、勝者に配当する仕組みでもあり、一種のパリ・ミュチュエル賭博に近い形式となり、規制の対象になっている。
④ 与信付与規制:
信頼おける顧客に対し、カジノ・ハウスが与信を付与することは米国では効果的なマーケッテイングのツールになっている。米国ラスベガスの賭博売上の半分はクレジット(与信)がベースになっているが、これは、しっかりとした審査や与信の仕組みが存在し、一定の規制とルールの下で為されているという制度的環境があるからこそ可能になっている。全ての国が、かかる環境にあるわけではなく、国によっては状況も異なる。
⑤ 広告規制:
国内における過度の広告は禁止されることが多い。国民に対し、過度の社交心を煽るべきではないとする政策判断による。
カジノを顧客にとり魅力のある施設として運営し、常に質のよい顧客を大量に集客するためには、施行者によるマーケッテイング努力は必須の要素になる(何もしないで良質の顧客は来ない)。よって、カジノの正当なマーケッテイング努力を削ぐ規制の在り方は本来好ましくない。一定の世界の標準となるサービスを提供できない施設には魅力が無く、顧客が来なくなる可能性があるからである。