賭博を単なるエンターテイメントとして楽しむ通常の顧客には殆ど関係ないが、如何なる国、地域、社会においても、賭博行為にのめりこんでしまったり、賭博が原因で破滅の道へと進んでしまったりする一部の顧客層が一定率で存在する。自己をコントロールできない、社会的弱者ということになろうが、現代社会では、かかる症状は精神的な病理と見なされている。賭博行為を認める政策をとる以上、かかる社会的な弱者に対する対応策を同時に取り決め、社会的危害を縮小化する制度を考えるのが現代社会におけるゲーミング・カジノ法制の特色になる。
この場合、政策的な選択肢としては、①制度的な措置はせず、あくまでも施行者、並びに施行者が参加する民間団体や任意団体等の自主的な活動や寄付行為等により、自立的、自主的に依存症への処置を民間レベルで対応させる、②売上の一定率を社会貢献税ないしは賭博依存症対応賦課金として、(売り上げに対して課税される粗収益課税の他に)追加的に売上に対し課税し、依存症対応策財源となし、国ないしは国の機関がこれを収受し、各種プログラムを主催する団体等に配分する、③国が粗収益課税の一定割合を依存症患者対応財源として特別会計に割りあて、当該プログラムのための特定財源とし、分配する、④国主導で依存症対応のための組織・機関を設け、このために別途一定の財源措置を考慮し、ゲーミング・カジノのみならず全ての賭博並びに類似的遊技等よりも財源を募り、問題に統一的に対処するなど様々な手法、考えがある。あるいはスイスのように、⑤民間施行者に具体の対応策を社会対応施策として企画・提案させ、認証された提案を自らの費用分担で実践する義務を課すことのみを法律上の規定として明記するなどの手法も存在する。
具体の政策として、必要なのは①まず、実態を正確に把握すること(社会調査や実際の統計データ等の実態把握がなければ対応策を取れなくなる)、②また、この実態把握に基づき、中長期的な対応戦略を立案し、当面の対策と合わせ、対応施策の目標と措置方針を明確にすること、③具体の施策として、依存症にならないようなあらゆる措置(抑止)、危害が発生しないような対応策(防止)をとること、④もし、発生した場合、その否定的な影響度をできる限り縮減すること、治療等の対応策を実施する体制を具備し、これを実践すること等の複数の段階で考えることになる。これはたとえば実務的には下記のごとき内容になる。
継続的な調査研究により、事態調査、事実の把握が必要となり、関連しうる大学等の調査研究機関等への支援や社会的調査を実施すること等により事実認識や統計を取ることが先決となる。その後平行的に、依存症に対する社会教育、問題の周知徹底と広告宣伝,未然に問題を防ぐ様々なアプローチ、施行者との協力による問題者の事前発見などを組織的に実践する。また、カウンセリングプログラム支援(施行者による財政支援、24時間ホットラインカウンセリング)などは、外部支援組織や施行者と連携をとりながら、カウンセリング機関等との協力が必須となる。同時に、カウンセラーの育成・教育・支援なども重要であろう。また並行的に、賭博依存症と認定された場合の治療プログラムの開発、関連しうるNPOやボランテイア団体、治療機関等への支援(施行者による財政支援や国による財政支援)なども必要で、これらに対しても適切な財源措置が必要となる。カウンセリングや治療等を包括的に体系づけ、連携協力、問題解決を図る組織の設立と支援も効果がある。
一部の国や地域において、制度の中に取り込まれたり、自発的な施行者による活動として実践されたりしている考え方に自己排除プログラム・家族排除プログラムがある。依存症患者は常に賭博依存であるわけではなく、正常な時もあるわけで、正常な時に施行者に対する自己申告、あるいは家族による申告に基づき、本人の同意のもとに立ち入りを禁止することをカジノ・ハウスがコミットする考えになる。家族排除プログラムの場合には、本人が拒否しても、専門家や第三者が介在し、本人を診断した上で、家族の主張を取り入れ登録することになる。一旦登録されると、入口で入場を拒否、それでも入場した場合には家屋侵入罪として逮捕される。物理的に賭博の場に入れさせないことで依存の根を断ち切るという考え方であろう。
これら賭博依存症は、現実に現代社会に生じている社会事象でもあり、我が国の公営賭博や類似的な遊技の分野でも少なからず存在すると判断されている。例えその事象が僅かであっても、この事実を無視すべきではなく、明示的な政策的対応が必要とされている。この意味では、賭博制度全体に対する共通的な社会的問題として賭博依存症問題を認識し、対応することが要求されているといっても過言ではない。