十数年前までの機械式ゲーム(スロット・マシーン)とは、中は複雑な機械でもあり、コインを投入し、あたった時はコインが出てくる仕掛けであっため、常にホッパーに一定数のコインを充填し、保持せざるを得ないものであった(このコインとは25¢、1㌦硬貨あるいはハウスが独自に作らせた現金交換可能な金銭と類似的なトーケンの如きものをいう)。かつ大当たりの時は、これでは対応できず、ハウスの職員がすっとんできて、確認の上、小切手を切るという手法がとられた。金銭を機械の中で保持し、貯め、支払う仕組みでもあったがために、コインの充填や回収は、全くの物理的な処理の世界になり、多くの労働力を必要とした。一方、1980年代ごろから急速に進展した、情報通信技術の革新、コンピューターの高性能化、小型化、インターネットやウエッブ世界の飛躍的拡大は、機械ゲームに革命的といえる程の変革をもたらしつつある。もはやスロット・マシーンは機械ゲームというよりも電子式賭博ゲームと呼んだ方がより適切なのかもしれない。機械的要素は限りなく少なく、現金授受も紙幣のみで、支払はバーコードによる金銭スリップを出させて機械外の場所(キャッシャーないしは現金交換機)で金銭交換を可能にするシステムになっている(これをキャッシュレス・システムあるいはチケットイン・チケットアウト~TITO~という。コインを貯めるホッパーのかわりに、バーコード・スキャナー(バーコード読み取り機)、ビル・アクセプター(紙幣受け取り確認機)、サーマル・チケット・プリンター(チケット印刷機)等を設置するもので、米国の機械業者であるIGTやEZpayが提唱し、またたくまに広まったシステムである。最も日本的な感覚からするとシステム自体は古く、採用されている技術も最新のものとは言い難い)。このスロット・マシーンの中身は電子回路と乱数発生機で構成され、この結果をモニターで表示するという、何ともはや味気ないものになってしまった。コンピューター技術の発展やアミューズメント世界におけるコンピューター利用の飛躍的進展が、賭博機械であるスロット・マシーンの根本を変えてしまったのであろう。
スロット・マシーンの電子化、情報化は、射幸性を増す多様な賭け方、多様な遊び方を顧客に提供することをも可能にし、単純機械ではない面白さを加えることになった。これが更に顧客層を増やし、ハウスの収益を底上げすることに貢献したという事実がある。例えば、マルチ・ラインと言う考え方があるが、碁盤状の正方形のマスをスロットの画面として把握し、この全体を画面上回転させ、横だけではなく、縦横斜めなど複数のラインにおける絵柄のマッチングを賭けの対象とするものになる。当然、賭け金単価は安い機械であっても、1回にマルチ・ラインを前提に、高い単価としてしまうことが可能となり、射幸心を煽る高額機械と変わらなくなるという仕掛けである。プログレッシブ・スロット・マシーンとは、複数の機械をリンクし、賭け金の一定割合をプールし、このプール化した巨額の賭け金が一定確率で顧客に当たるというネットワーク型賭博機械の如きものである。この大勝ちをジャック・ポットというが、高額賭け金を狙えるという意味では、これも射幸心を煽る一つのツールになる。この他、通常のスロット・マシーンでも、画面を変え、勝ち分を倍にする賭けの選択肢(ボーナス・ゲーム)を随所に入れ、射幸心を煽る仕掛けなどをしている場合も多い。この結果、スロットは単純な僥倖を楽しむ賭博というよりも、顧客の選択次第では、かなり射幸性の高い賭博機械になったともいえる。事実、賭博依存症とは、この賭博機械にはまってしまうことが症例の過半になる。
電子化、情報化、システム化の動きは、機械であるスロット・マシーンだけにとどまらない。テーブル・ゲームで人間であるデイーラーの役割と動きを機械に代替させ、機械の中でテーブル・ゲームを楽しめる仕組みと環境が既にできている(これは例えばマージャンを一人で、コンピューターで楽しむ感覚に近い)。かかる仕組みは賭博行為を更に個人化の方向にもっていくことを可能にしている。またこの趨勢は、アミューズメントと賭博行為の境目を限りなくわからなくしつつある。
電子化、情報化、システム化していく賭博行為の規制上の課題は何であろうか。人間が介在しないということは、①不正やいかさまの可能性は極めて限定される様になること、②一方、システム回路等、人間には見えない部分で、回路改ざん等の不正やいかさまが行われるリスクは高まることにある。この結果、現場の規制や監視ではなく、システムやプログラム回路の技術標準やその基準適合性などが規制の要点になってしまう。これは技術の発展に伴い、規制や制度の在り方も弾力的に変えていかざるを得ないことになることを示唆している。市場における技術の進展は止めることはできない。だからこそ、柔軟性のある規則を前提とし、規制機関にその制定や改定の判断権限を付与することが通例となっている。