ゲーミング・カジノを規制する目的とは悪や組織暴力がカジノの施行に関与しないようにあらゆる防御を図り、消費者を保護し、健全なゲームを提供できる環境を確保することにある。このために、施行を担う直接的・間接的当事者(即ち、施行者、その主要株主、経営者、主要管理職、並びに職員、あるいは関連する業に従事する者)を対象に厳格な参入規制が制度的に措置されている。この仕組みは、過去数十年間の諸外国の実績により、明確な効果があることが立証されてきた。この結果、規制や制度がしっかり構築されている米国等の先進諸国においては、施行者に直接マフィアや組織暴力が商業的賭博に関与しているということは最早ありえない。
一方、これら組織暴力が間接的な形でカジノに関与したり、あるいはカジノの周辺や外部から関与したりするリスクは現状でも潜在的に存在する。もし、関与することができれば、犯罪組織が効果的に活用しやすい事業類型ということになり、大きなリスクを抱えることになってしまう。これは、①カジノ自体がキャッシュ・リッチな産業でもあり、不特定多数の顧客が存在し、巨額の現金を取り扱い、現金を賞品とする商売である以上、悪事をする場合には、極めて好都合な業態でもあること、②もし、正当な資金を装って、不当に得た資金をカジノを対象として投融資することができれば、確実にその配当は洗浄された資金になるとともに、間接的にカジノ施設をもコントロールすることができるようになること、③何らかの弱みにつけこみ、真面目な直接的当事者に影響力を行使して、犯罪へ誘い込むことはありうること、④カジノの内部には入らず、あくまでもカジノの周辺に存在し、顧客を装い、マネー・ロンダリングの相手としてカジノが利用されることもありうることなどという事情があるからである。かかる事情が存在するために、カジノの業とは、常に規制当局がこれを監視、監査、検査し、悪のトレースを一切断ち切る役割を果たしている。また、これにより初めてその健全性、安全性が保持されているといえる。
規制の厳格さは、その意味では70年代に制度の骨格が固まった時点と比較すると大きな変化はない。但し、それでも一部制度や規制に関しては、その後の運営監視や施行の経験を考慮し、現実に合わせて、簡素化、緩和化されている側面が存在する。例えば、当初の制度では過度に厳格すぎる措置をとった為に、時間の経過と共に、修正することがより合理的と判断された事項等になり、その内容は、現実に合わせて簡素化されている。例えば、①対顧客規制を緩和すること(ゲームの賭け方や実際のゲーム運営の在り方などで、不必要な程に厳格であった手順などを緩和している)、②運営に係る直接的当事者(施行者及び、その株主、経営者、主要管理職並びに職員)と間接的に係る当事者(機材や機械の製造者、販売者、様々なサービス提供者ないしは納入業者など)に係る審査要件の厳格度に差を設け、少なくとも後者に関してはその要件をある程度簡素化すること、③監視と法の執行の実態を緩和するわけではないが、規制当局と法を執行する機関の重複を無くし、実態に合わせ行政機構を簡素化、スリム化することなどである。
制度の在り方としては各国、地域いずれにおいてもライセンス(免許)や運営の在り方は類似的になりつつある。一方、この規制を担う行政機構の在り方は、各国、あるいは一国の中の州毎に大きく事情が異なる。例えば、対象施設数が限定される市場の場合と、そうではない場合の市場とでは、規制当局の体制やスタッフィングも大きく異なってくるのは当然であろう。後者の場合には、たとえば既存の行政機構の枠組みを活用し、特段の行政組織を設けなかったり、規制機関の権能は一般的なものとするが、その事務局を簡素化し、既存の組織と一体化したりする等の考え方になる。また、規制と監視の実践過程で、過剰な規制当局の人員配置があったり、重複的な機能があったりした場合なども、実態に合わせて、簡素化する試み等がなされている。かつ、電子技術の発展は、明らかに、一部監視業務をも簡素化・合理化することに貢献している側面があり、人間の介在が減ることによる効率化・合理化は規制の内容をも少しずつ、変えつつあるといっても良い。