諸外国あるいは一部の途上国においては、過去も現在も、ゲーミング・カジノを観光ないしはビジネスで来訪する外国人を顧客とし、彼らをゲームに参加させ、支出させることにより外貨を獲得する効果的な手法として政策的に用いられてきた。自国民を一切顧客対象とせず、あくまでも外国人来訪客のみを受け入れる外国人専用施設とするわけである。自国民を受け入れつつ、かつ外国人観光客をも受け入れる制度的なあり方もあるが、この場合にはマスとしての顧客は自国民になり、外国人観光客はあくまでも補完的な役割にすぎなくなる。顧客層をどう営業的に把握し、如何なるアプローチを取るかによっても、施設の在り方や投資規模、及びその経済的効果は大きく異なってくる。外国人観光客専用の施設ならば、さほど大きな施設はいらないとともに、その経済的効果も限定されることになる。一方、自国民をも顧客として含む施設の場合には、かなり大きな施設とすることが経済合理性に適っている。このどちらを選択するかによっても、制度の在り方は大きく異なる。
外貨獲得の為の外国人専用カジノというモデルは例えば、韓国、カンボジア、ベトナム、インド等のアジアの途上国や一部の国に限定的に存在する。制度的には単純で、自国民には何ら関係ない施設となることより、極めて閉鎖的な環境の中で、対象顧客を外国人観光客や居留外国人のみに限り、外貨によるゲーミング・カジノを認めるという、あくまでも特例としての例外的な措置でしかない。これが為に、精緻な制度があり、規制者がいるわけではなく、例外的特権としてこれを規定し、曖昧な制度のまま実施されているという事例が多い。あるいは制度や規制自体が無い国もある。また,施設規模は必ずしも大きくないこと、対顧客サービスは限られること、一部を除いては、必ずしも事業採算性は良いとは限らないケースも多いことなどが特徴的となる。かかる事情により、公平、公正なゲームが提供されているか否か、施行主体は健全な主体か等について懸念を抱かざるを得ない国、地域等も存在する。外国人専用カジノの場合の成功要因とは、①外国人観光客が多く集まる地点で、外国人にとっての来訪アクセス、利便性が良いこと(必然的にこの条件を満たすのは飛行場のアクセスが完備している大都市、あるいは隣国外国人の来訪を期待した、国境周辺のカジノ施設などになる)、②外国人観光客が来訪する明確な誘因があること(会議やコンベンション等のビジネス需要、魅力ある観光資源が併設されていること、あるいは国際飛行場そのものに立地、当該地点までの利便性の良いフライトが確保されていることなど)になる。かつまた留意すべきは、確実に顧客総数が限定される以上、投資総額も施設整備も限定され、観光のメルクマールとなる大規模複合観光施設としてのカジノは期待できないことにある。これは投資判断を誤れば、確実にペイしないし、失敗することになりかねないことを意味している。あるいは民間投資そのものが当初から実現できない。
例えば、韓国には現在、16の外国人専用カジノ施設があるが、事業性の良いのは大都市で外国人観光客にとり交通アクセスの良いソウル、プサンのみで、その他は殆ど赤字で、全く事業性が見込めない施設となってしまっている。韓国では、主要顧客となる日本人や、中国人にとってのアクセスが悪ければ、明確に外国人顧客を集客できない。単にカジノ施設さえ作れば、観光客・顧客は必ず来るという誤解がかかる乱立をもたらし、結局、事業としては全く成功していない。因みに韓国における法制度は、「観光振興法」の中でカジノを認めているが、事業者に対し内国人入場を禁止する制度的な規定が存在し、この規定により内国人は参加することができない制度的枠組みとなっている。一方、韓国では、内国人の入場を認めるカジノが一か所のみ特例的に認められ、現存するが、これは「廃坑地域特別措置法」に基づき、特定地域の経済再生の為のツールとするために、例外的に認められたもので、観光振興法の規定にある内国人排除規定を例外として、適用除外する内容で、内国人もプレーができるようにしたものである。この施設は開業初年度より、全ての外国人専用カジノ施設総数の合計収益を上回る好成績を上げている。
外国人専用のカジノは余程の好条件が重ならない限り、成功するとは限らない。カジノを実現するならば外国人カジノをつくればよいという単純な議論が我が国にもあるが、おそらく現実を全くご存じないのであろう。顧客を差別化し、制限する場合、カジノはうまく経営できなくなる可能性が高くなる。カジノ施設は確かに一定の条件が揃えば、極めて限定的に特定の外国人旅客を惹き付ける効果があるが、これは金の卵を産むガチョウではない。市場を無視し、単にカジノができさえすれば良いという単純な考えでは必ず失敗する。