カジノは集客力の高いサービス産業施設でもあり、例え小規模であっても市場の状況次第では確実に一定の経済効果をもたらすことができる。例えば、近隣に競合施設がなく、かつ大都市等潜在的顧客市場へのアクセスが良い場合などには、大きな集客効果を発揮し、規模の大小に拘らず確実に事業性が見込める事業となることが多い。収入の予見可能性が高いこと、事業としての成功の確率が高いことなどがその事業特性でもある。この意味ではカジノは一定のパワーをもっており、これを政策的に、かつ効果的に使うという衝動が為政者に生じることがある。
このゲーミング・カジノの特性を利用し、例えば①社会的に虐げられた経済的な貧困層で、政府支援に頼っている社会的グループを救済する目的で特例的にかかる行為を担うことを認めたり、②経済的に疲弊した地域の経済再生の具体的手法としてかかる行為の施行を特例的に特定地域に限定して、認めたりすることがある。本来代替的に政府補助金等で支援できる方策もあるはずだが、政府の財政逼迫から、財政負担無しで、当該地域や、特定の民間主体に対し、一定の権利を制度的に認めることにより、市場から資金を調達させ、事業性のある事業を実現させることにより、その便益を地域社会や関係者に享受させるという考え方になる。
前者の典型的事例は、米国先住民部族となるインデイアン部族に対し、その居留地において特例的にゲーミング賭博を認めた制度的枠組み(1988年米国「連邦先住民ゲーミング規制法」~IGRA~)であろう。米国先住民は米国社会の中でも劣悪な環境の土地となる僻地でもあった居留地に押し込められ、全米で最も貧困となる社会層に属した。連邦補助金も十分に支払われない、これら先住民部族によるゲーミング・カジノ施行を特例的に認め、その便益を部族社会が享受する枠組みを制度として設けたケースである。勿論この場合、顧客は通常の米国人であって、先住民が自らの居留地において一般米国人を顧客とするゲーミング賭博を業として担うことを認めるという内容でもあった。1980年代は、米国社会においてまだカジノ・ゲーミングは限られた州、限られた地点においてのみ可能であった時代でもあり、以後、部族ゲーミングは全米において飛躍的に拡大、発展し、現状では所謂通常の商業的カジノ施設に匹敵する規模にまで発展するに至っている。この発展が米国先住民部族にもたらした経済的貢献や効果は極めて大きいものがある。
一方後者の事例は、韓国にあり、政府のエネルギー政策の転換により、経済的困窮地域となった旧産炭地域を救うために、旧産炭地域に限り、かつ1ヶ所のみとして、従来韓国人にはその入場が認められていなかったカジノを律する制度を改定し、旧炭鉱地域に設置される複合的なリゾート施設の中に韓国人(内国人)でも参加できるゲーミング賭博の設置を認めた制度的枠組みになる(韓国1995年、「廃坑地域再生特別措置法」)。国が補助金で対応するよりも、制度を作り、民資金を活用し、カジノを核としたリゾート施設を興させ、これを新しい産業として認知することにより、この地域全体の経済的再生・活性化を志向するという考えでもあった。国内で認められた唯一の内国人も参加可能なゲーミング賭博施設であったがゆえに、これも大成功となり、大きな集客と経済効果を地域にもたらすことになった。
いずれの場合にも、国の支援はあくまでも制度の創出にあり、財政的支援があるわけでは無いが、当初の政策的意図を満たし、うまく成功した事例となっている。この様に、本来政府が補助金等の他の施策をもって、支援する手法でも対応できるが、財政逼迫によりこれを断念し、代替的な施策として、集客力、雇用力があり、経済性、事業性も優れて高いゲーミング・カジノ施設の設置(あるいは誘致)を認めることを、一つの政策手段として用いることが行われたわけである。この場合の政府にとっての政策目的とは、単なる税収ではなく、従来の政策では予算が行き届かない社会的、地域的弱者の救済にあることが特徴で、政府の財政支援なくして、彼らが経済的に自立することを促すことがその狙いでもあった。
米国先住民カジノの場合には、基本的に国(連邦政府)はその売り上げから税を徴収することはせず、全ての経済的恩恵が地域や特定主体にいくような政策的配慮をしている点も特徴の一つになる。もっともパリ・ミュチュエル賭博となるビンゴ等を主催する場合には、この通りだが、クラスIIIと呼称される通常のカジノ賭博を主催する場合には、部族が立地する州政府の同意取得が条件となり、州政府も一部監視・規制等に関与することから、その見返りとして、契約行為によりスロット・マシーン収益の一部(10~20%)を州政府に分与するという慣行が根付いている。但し、これは契約的慣行であって、制度的事由ではない。