「統合リゾート」(Integrated Resort、略称でIRと呼ばれている)とは、多様なエンターテイメントやアメニテイー施設群を包含する複合観光施設で、観光客、ビジネス客、地域住民などの内外の顧客を集客し、交流、消費を通じて、魅力ある楽しみやサービスを提供できる施設コンセプトを意味する。2006年シンガポール政府がカジノを核とする複合観光施設開発を企図し、実現した際に提唱し、用いられ始めた概念規定で、以後、様々な国々において参照され、模倣されつつある考え方である。
これは、一種の都市型リゾートとしての新しい概念でもあり、概念的には、その施設や機能の特徴は下記の如き要素から構成されている。
① 都市のシンボルとして、様々なエンターテイメントの機能や要素を複合化し、これらを集中的に提供できる集合・集客レジャー施設を前提とし、どこにも類似例のない施設、誰もがいってみたいとする魅力ある施設群を整備することが前提になる。その施設構成要素としては、カジノ、ライブ・エンターテイメント・ショー、劇場、博物館、美術館、各種イベント及びイベント広場、ホテル、多様な飲食施設、ショッピング・モール、ナイトライフを支える様々な施設、ビジネス客のためのコンベンション施設、会議室、展示場・イベント・ホールなどになる。これら要素をうまく組み合わせ、他にはない都市としての魅力ある施設群とサービスを提供することがその狙いである。
② 複数の機能や様々なサービス、これを提供する枠組みとしての施設群を集中的に提供することで、集客力を高め、結果として消費のシナジーを生み出すことを企図することになる。この顧客対象は、ビジネス客、旅行客、一般市民であり、これら顧客や老若男女を差別せず、賑わいを創出し、地域における様々な経済的効果(投資・雇用・消費・税)を高めることに期待するわけである。
③ まず顧客を惹きつけることのできる集客力のある魅力的な施設があることが全ての前提になる。一定数の消費単価の高い顧客を集客し、消費を活性化することができれば、その他の周辺施設群においても、消費の相乗効果を生み出すことが可能になる。このために、集客の核施設として、ゲーミング・カジノ施設を位置づけている。但し、当該部分は、施設全体の全床面積のうち、3~5%程度のみにとどめ、飽くまでも全体の統合リゾートの一つの施設とし、突出性をもたせない配慮をする。カジノは集客の為に必要不可欠の要素という位置づけでもあり、それ以上でもそれ以下でもない。なくてはならないが、それがメインの施設となることはないという位置づけでもあろう。
④ 統合リゾートの実現は民間投資による地域再開発、あるいは民間投資誘致という側面もあり、政府(公的主体)が、一定のあるべき施設コンセプトや、要求される機能、顧客に対するアメニテイー、インターフェースとなる公共空間と公共施設等を要求水準として提示し、競争公募により、具体の施設投資提案をさせ、最適提案をした事業者を選定することになる。この際、関連するインフラや交通アクセス手段なども、全体施設の一部と見なされる場合には当該事業者の所掌範囲とすることがある。
⑤ 競争公募を主催する国(ないしは公的主体)にとり、これは投資誘致、開発事業でもあり、関連する契約は当該民間主体との「開発契約」になり、この事実のみをもって、ゲーミング・カジノの許諾が自動的に付与されるということはない。シンガポールの場合には、民間事業者が、コミットした投資額の半分以上を投資した時に初めて、カジノに係る免許(ライセンス)を申請できることが前提になった。開発行為を実現することが最大の目的で、まずカジノありきの話ではないということになる。カジノに係わる免許は当初から確約されておらず、投資行為の実現性が確認された後ということになり、当該民間主体にとっては大きなリスクとなる。
「建設するのはカジノではなく、統合リゾート、カジノは飽くまでもその不可分な一要素に過ぎない」とは、案件実現を判断した際のシンガポールの為政者(リー・シェンロン首相)による発言である。カジノをどう規制し、管理するかは新たな立法措置を図ることを前提に、如何なる施設を作るかは全く異なった政策的視点から、都市再開発と絡めて、その中の一施設としてカジノの実現を図ったということになる。これを統合リゾート(IR)と定義し、かつこれを機能的に敷衍する概念が、MICEでもあり、マルチ・リゾート(Multi Resort)という概念でもあった。この事例を見るまでもなく、現代社会においては、エンターテイメント・カジノの実現は、複数の政策目的の実現の中に組み込まれ、地域や都市の再開発、国全体の観光振興などの諸施策と同時平行的に実現される考え方が主流になりつつあるといえる。