米国連邦憲法第10改定( 10th Amendment)は「憲法が連邦政府に授権していない権限、ないしは連邦政府が州政府に対し禁止していない権限は、各々州政府、国民に帰属する」と規定している。これは、所謂米国連邦憲法の連邦主義の基本を規定する憲法規定の内容である。この規定に基づき、連邦憲法が明示的に規定していない全ての事項は基本的には州政府の管轄になる。ところで、米国の連邦憲法は賭博行為には明示的に触れていない。この結果、米国においては、賭博行為を認めるか否か、また認める場合、どのように認めるかは、連邦憲法上の問題ではなく、全て州政府の管轄事項になる。国が定めるのではなく、州の住民による自治の問題として、住民の自由な判断に委ねるべきという考えでもあろう。
上記背景により、米国では、連邦法としての統一的な賭博法体系は存在せず、これらを制度として認めるか否かも含めて、全て州毎にバラバラな状況にある。20世紀初頭以降の米国の諸州では、過去の経緯により、賭博行為自体を州憲法よりに明示的に禁止している州が殆どであったが、時代の変遷を経て、為政者や議会の意欲、州民の意思(直接投票)により、賭博行為を段階的に、かつ制限的に認めるように変化してきている。州民の意思次第では、制度も変わることになる。またこれは、時代の風潮や、背景、国民のパーセプションによっても変わるので、制度として常に一定であったということはない。事実、米国では時代の民意を反映し、時代毎に制度がころころ変わったという歴史的経緯がある。もっとも現在の米国では、州法により何らの賭博行為も認めていない州は、わずかハワイ州とユタ州のみでしかない(残りの49州には何らかの形での賭博行為が制度的に認められ、実践されていることになる)。また、認める場合であっても、基本的には州民と州議会・為政者の判断で、州法によりこれを規定することとなるため、当然のことながら、その内容は、州毎に異なり、必ずしも同一ではない。州境を超えれば、違法になったり、合法になったりすると共に、政策目的も、税率も州毎に異なる。果たしてこれで全体として国の秩序が保持され、その仕組みがうまく機能しうるのかが心配になるが、州際間の制度上の差異が制度の根幹にかかわる程に大きな問題になった事例は過去あまりないというのが実態でもあった。
米国では、歴史的に、
① 賭博行為は西部開拓と共に庶民の生活の中で、自然に発展してきたという事情がある。一定の賭博行為は社会の中で日常的に行われてきたという経緯があり、その存在を社会的に認めるという寛容な伝統が歴史的に存在した。また、違法賭博に関しても、社会的に一定の許容度があり、これを認める寛容さが存在したともいえる。目くじらをたてて禁止するよりも、社会に危害を与えないならば放置して、黙認しても良いではないかという態度でもあろう。
② もっともかかる寛容さが存在しても、あるいは逆に制度的に賭博行為が認められていても、社会における賭博行為の許容度と寛容さは時の市民の意識に伴い変化する。政治や行政府を巻き込むスキャンダルや犯罪組織による目にあまる社会や政治への介在は市民の反発を招き、過去、これらが起因となり規制の強化や禁止をもたらしたという経緯と事実もある。
賭博制度の基本は上記の様に、州政府管轄事項となるのだが、勿論例外事項もある。例えば、一つの州の規制項目を無視して、他の州の事業者が他州から許可なしに顧客を横取りするようなケースになる。これは、電話等の通信手段があれば、過去も現在も可能であろう。例えば制度上は、州内においてのみ認められているロッテリー・チケット販売を、他州の事業者が州境を超えて他州のチケットを自州の州民に販売する様な行為等になる。個別の州毎に規制が存在すると、この差異を悪用して、需給のギャップを裁定しようとする者が生まれるのは、世の常なのかもしれない。かかる州際間の行為はどこかで連邦政府が仕切りを設けなければ問題になってしまう。また、諸外国との条約が絡む公海上の賭博行為、あるいは州境を跨る金融行為に伴うマネー・ロンダリング、マフィア等の組織的悪への対策等に関しては、国としての汎用的な対応措置が必要となる事項になる。更にはそもそも州境という概念が無いインターネット賭博等は、州では無く、連邦政府所管事項となることが本来あるべき筋となる。国としての一体的な整合性のある対応が要求されるからである。
尚、米国における先住民部族(インデイアン)に関しては、歴史的な経緯により、やはり連邦法における特別の例外規定として、その居留地においてのみ、一定の条件を満たす限り商業的賭博を施行することが認められている。これも上記の州政府管轄からは逸脱するが、州法では商業的カジノは認められていない州であっても、かかる連邦法を根拠とした部族カジノが存在することがある。
この様に限られた分野では連邦政府と州政府が重層的に関与する分野も存在し、制度的にはかなり複雑となるのが米国の実態である。