ネルソン教授によれば、第三の波は現在でも継続しているということになるのだが、90年代から2000年代にかけてのゲーミング・カジノ施設の巨大リゾート化、複合化の動きとは別の動きが2000年代末期以降明らかになりつつある。断絶はないのだが、これまでとは異なる動きが生じ始めている。今までゲーミング・カジノとは殆ど無縁であった保守的な東部諸州を中心に、新たにゲーミング・カジノや様々な商業的賭博行為を認めようとする施策があちこちに生じつつある。様々な州における幅広い商業的賭博を認める動きと広がりは、第四次ブームと言ってもよいほど、地域社会や産業界を動かしつつある。これにより、急速に賭博市場そのものが拡大することになった。この新たな趨勢を米国では「ゲーミングの拡大」(Gaming Expansion)と呼称しているが、従来とは異なるスピードと範囲で、様々な州でこの動きが広がりつつあることは間違い無い。
背景となるのは、やはり米国諸州による制度上の財政均衡主義であろう。歳入と歳出の均衡を制度上の原則とする場合、継続する不景気に伴い歳入不足が見込まれる場合、むやみに借金(公債)に頼ることはできず、増税や支出削減等人気のない施策しか取りようがなくなってしまう。2008年のリーマン・ショック以降の米国における全般的経済不況は、様々な州において、経済低迷、税収不足、歳入欠陥という悪循環をもたらした。これに対する効果的な施策の一つとして、新たな賭博種の導入を認めることにより、新たな財源を確保するという動きが、これまで商業的賭博には比較的冷淡であった東部諸州から起こり始めてきたことになる。単純で無いのは、これらの諸州は、州憲法で賭博行為を原則禁止しており、限定的とはいえ、州法を変える議論が州議会で必要でもあったことによる。但し、様々な州での議会の動きは、ゲーミングの拡大を事実上認める方向にある。適切な規制と監視があれば、賭博行為は健全化できるという為政者や議会による自信が、一般的な背景にあることも事実であろう。この動きは、段階的に、かつ様々な賭博種の分野において、平行的に進みつつある。例えば下記のような事象である。
① 競馬場併設スロット・カジノの許諾:
レイシーノ(Racino, Racetrack Casino)と呼ばれ、既存の賭博場の余剰土地を活用し、ここにスロット・マシーンないしはVLT等のオンラインで管理可能な、電子式ゲームをかなりの規模で設置する施設をいう。米国でも伝統的な競馬はファンを段階的に減らしつつあるが、潜在的な集客施設に新たな施設を併設することにより、さらなる集客と消費を促す仕組みになる(競馬場にスロット・カジノ施設を併設する考えである)。いずれの州も既存の競馬を所管する州政府機関である競技委員会(Racing Commission)がこのゲーム種の規制者となっている。ペンシルベニア、デラウエア、メリーランド、西バージニア、ニューヨーク、メイン、ロードアイランド、フロリダ、インデイアナ、アイオワ、ルイジアナ、オクラホマ、ニューメキシコと施設数は急増しつつある。
② スロット・カジノ(VLT)パーラーの許諾:
スロット・カジノないしはVLTパーラー等と呼称されているが、電子式賭け事機械のみを設置した施設をいう。いわばパチンコ・パーラーごときなものなのだが、大都市内部等、大消費地である場合には、一定数の機械を集約して設置することができれば、かなりの集客を可能にし、確実に収益を上げることができる。特に近隣にカジノ施設がない場合、その代替的施設となりうる。上記競馬場併設スロット・カジノとは別に東部諸州で認められ始めたのだが、VLTをベースにロッテリーを所管するロッテリー委員会(Lottery Commision)が規制当局として集中的にシステム管理する手法を採用しており、従来のゲーミング・カジノとは異なる規制と管理の考え方が採用されている。
③ コンビニエンス・スロットの許諾;
イリノイ州で試みられている考えで、数千という単位となる州内の特定的な集客施設に5台以内のVLTを設置する考えで2012年後半に実現する。市内のバーや様々な施設にまんべんなく設置する考えに等しく、町中にパチンコ施設を設置する考えに近い。
④ スロット・カジノでのテーブル・ゲーム設置許諾
ペンシルベニア、デラウエア、西バージニア、メリーランドでは上述のスロット・カジノ・パーラーないしはレーシーノにテーブル・ゲームを設置することを認めてしまった。これにより、レイシーノもスロット・カジノも賭博の内容としては、実質的には陸上カジノとなんら変わらない施設になってしまいつつある。
⑤ 本格的商業的ゲーミング・カジノ施設の許諾:
様々な賭博種における成功は、フロリダ、マサチュセッツ、ニュー・ハンプシャー等の州で、新たに本格的な陸上設置型カジノ施設を認めるという動きに繋がり、関連する法律が成立し、時間の問題でこれらが実現する州もあれば、法案が成立途上の州もある。
上記で共通している事象は、これまで一部の特定的な場所にしか存在しなかったスロットマシーン、VLT等の賭博種が人口が比較的に密集している東部諸州の大都市近郊に設置されたことにある。これら電子式賭博機械は全てオンラインで規制当局にリンクされ、従来のゲーミング・カジノとは異なる簡素化された規制や管理・監視の仕組みの下でその運営がなされている。簡素な規制でも健全性、安全性は守られるという自信の表れであろう。もっとも、かかる機械施設がある場所にテーブル・ゲームが追加されつつあり、実質的にほぼすべての施設がカジノ施設化しつつある現象が生じている。この動きは今後もますます活性化すると想定され、潜在的需要がある限り、当面このブームが継続すると見られている。