米国における賭博市場はどのくらいの規模になるのであろうか。全体像を示す信頼おける統計数値は意外と少ない。通常、粗収益(GGR)でこれを把握するが、粗収益とは、賭博行為における「売上」の概念でもあり、税控除前の主催者・胴元取り分になる。即ちカジノでいえば、総賭け金から顧客勝ち分を差し引いた金額で、税、費用控除前のハウスにとっての売上に近い概念になる。もっとも最新の市場全体を把握できるデータは若干古く、2007年レベルでの米国ゲーミング協会(AGA)程度のものしかない。北米州・郡ロッテリー協会(NASPL)、連邦先住民ゲーミング委員会(NIGC)、米国先住民ゲーミング協会(NIGA)等はバラバラに個別分野毎の売上数値等を公表しているが、統計の取り方に差異があり、単純には比較できない。この米国ゲーミング協会の資料によると米国における賭博の全体市場は約922億㌦相当額に達し、これは下記に分類できる。2011年レベルでも大きな賭博種の売上は微増しているが、全体の趨勢と規模はあまり変化がないと想定されている(尚、これは捕捉できないインターネット・カジノ等は勘定に入っていないわけで、もとより正確性に欠け、概要を理解するだけの価値しかない)。
① カードルーム 11.8億㌦(一種のミニ・カジノの如きものである)
② 商業的カジノ 344.1億㌦(レーシーノを含む)
③ 慈善ゲーム並びにビンゴ 22.2億㌦(教会等が慈善の為に行う賭博になる)
④ 先住民部族カジノ 260.2億㌦(粗収益)
⑤ ブックメーキング 1.688億㌦
⑥ ロッテリー 247.8億㌦(顧客支払分を差し引いた売上)
⑦ パリ・ミュチュエル賭博 35億㌦(競馬、グレイハウンド犬競技等)
最大の市場は商業的カジノになり、米国人のカジノ好きを物語るが、上記の内、実は類似的なものがある。カードルームというのは一部の州で認められている小規模のテーブル・ゲームだけを提供するクラブ施設的な性格の遊興場のごときもので、ミニ・カジノの如きものである。所謂カジノは商業的カジノとして分類されるが、先住民部族カジノと機能的には類似ないしは同じと判断することが適切でもあり、この両者を合わせると約600億㌦を超える市場規模になる。ロッテリーは宝くじ、パリ・ミュチュエルは競馬、グレイハウンド犬競技等になるが、競馬場にスロットが併設されたレイーシーノの統計上の扱いは、競馬とスロットは全く別々になるため、後者はカジノの統計に入る。一方ややこしいことに、ロッテリー委員会が所管するVLTは統計上、ロッテリーの内数である州が存在し、この点上記は正確な分類になっているわけではない。
上述中、個別の分野に関しては詳細な最新統計データが存在する。商業的カジノ施設は2011年時点では、総数438施設、22州に存在し、部族カジノが456施設、28州に跨る。商業的カジノ施設は直近の2011年時点で、総粗収益は2010年レベルより3%増大し、356.4億㌦、33.9万人の直接雇用、ゲーム税として79.3億㌦の納税を実施している(出所:米国ゲーミング協会)。一方部族カジノは、2011年レベルでは、総粗収益は272億㌦に達し、やはり前年比3%増大している(出所:連邦先住民ゲーミング委員会)。カードルームが存在するのはカリフォルニア、フロリダ、ミネソタ、モンタナ、ワシントン州のみだが、小規模施設とはいえ、なんと合計443施設も存在し、数の上では極めて多い。
これら様々な賭博施設は様々な州に偏在して存在し、今や米国で何らの賭博行為が実施されていない州は、ユタ州とハワイ州のみである。その他の全ての州において、上記いずれかの賭博行為が実践されているということになる。
尚、
① 商業的賭博に関しては、1998年以降、一貫して成長軌道にあり、2007年にいたる10年間は、売り上げも、カジノ関連税もその金額が10年前の約倍に増えている。2008年後半より2009年にかけて数十年来の成長の鈍化が生じたのはリーマン・ショックを契機とした世界的な不況と、これに伴う旅行者や観光客の減少、消費の減退による。売り上げの総額は若干減ったとはいえ、2010~2011年には、供給が拡大したことにより、市場全体は再度成長軌道に乗りつつあり、顧客の全体支出額としては、依然高い水準にある。
② 賭博産業やカジノ・エンターテイメント産業も、その基本は一般の観光産業動向と同じ傾向にある。この意味ではマクロ経済の波、景気変動の影響を受けやすい体質にあると判断することができる。景気の一般的悪化に伴う旅行、観光支出の減少、コンベンション回数の減少や、コンベンション顧客の減少が、全体の顧客支出を減らし、これに伴いゲーミング収益も減少する傾向にある。
但し、エンターテイメント産業は、不況にも拘わらず、今後も一定の消費レベルを維持すると考えられ、今後景気の回復に応じて、消費は段階的に回復すると考えられている。