既に述べたように、米国連邦政府は、連邦憲法の規定に基づき、賭博法制やその規制に関しては、できる限り関与せず、一歩離れて州政府にその規制や管理を委ねてきたという歴史的経緯がある。もっとも例外的に1890年代には、国民世論に押されロッテリーに関し連邦規制が実現したことがあるが、あくまでも一時的な現象でもあった。連邦政府が再度、国としての規制の動きに積極的に関与することになってきたのは、ケネデイー政権時代で、1961年が契機となる。これは専ら組織犯罪対策の一環として複数の連邦法が成立したことによるが、これら法律の一部は州際間での組織犯罪がらみの賭博行為を規制する内容となっている。立法の目的は各州が各々の州の賭博規制法を執行しやすくするためのもので、州際間の取引を規制するものであった(一つの州で規制していても、規制の無い州、あるいは賭博が認められた州から、他州の顧客を勧誘することにより、州法の規定をうまく逃れる違法行為が生まれうる。これに組織犯罪が関与していたという事実があったという事情による。州毎に異なる制度の隙間を悪用するわけである)。50年代から60 年代にかけての連邦政府によるこれら立法措置は明らかに州政府規制の補強・補完でもあり、個別の州政府規制の間隙を埋め、より効果的に法の執行ができる様な連邦法上の配慮になるといっても過言ではない。
1960年代までに制定された主要な連邦政府による州際間賭博関連規制は下記の通りである。
① 1951年「賭博器具輸送法」(Transportation of Gambling Devices Act、通称ジョンソン法、Title 15 USC Chap 24 Sec 1171-1178):
一定の賭博器具・機材などの使用が法律により禁止されている州に、意図的にかかる賭博器具・機材を持ち込むことを違法とする法律となる。賭博機器・機材の製造家及び販売家を毎年司法省に登録させ、規制の対象とし、適切な管理の下に州際間における製造や販売がなされることを企図した内容になる。州際間における賭博関連ハード、ソフトの販売は、全てこの法の規制対象となる。
② 1961年「州際間有線法」(Interstate Wire Act、Title 18 USC Sec 1084 ):
競馬等のスポーツ・ベッテイングに関する賭け事、かかる賭け事を支援する情報等を電話等の通信手段を用いて州際間で提供することを禁止した法律である。例外は報道情報の伝達、ないしは両方の州でかかる賭け事が認められている場合のみとなる。組織犯罪対策の一環として制定されたもので、電話等の通信手段を用いた違法な賭博行為やブックメーキングの根絶を図る目的でもあった。この意味では、顧客ではなく、ブックメーカーや賭博行為を提供する主体を規制する内容でもある。この法の対象はスポーツや類似的イベント等狭い範囲として判例上は把握されていたが、その後インターネット賭博を規制する法律根拠として連邦政府・州政府により主張されてきた。勿論、インターネットは必ずしも有線とはいえないのだが、電話回線を用いたコミュニケーション手法に類似的として拡大解釈されたことになる(尚、2011年12月に連邦司法省は、従来とってきた法解釈を変え、1961年有線法はあくまでもスポーツ・ベッテイングのみを対象にしたものと規定し、この法律を根拠とし、インターネットによる賭博を禁止する根拠が無くなることになった)。
③ 1961年「旅行法」(Travel Act、Title 18 USC Sec 1952 ):
上記有線法を補足する内容で、ケネデイー司法長官時代の一連の組織犯罪対策法の一つとなる。不正資金や非合法事業を担う為に州際間の取引手段を利用したり、州際間の旅行をしたりすることを禁止した法律である。例えば判例によると郵便、電話、電報、クレジット・カード等を使用することは州際間の取引手段を使ったとみなされる。
④ 1961年「賭博器具州際間輸送法」(Interstate Transportation of Wagering Paraphernalia Act、Title 18 USC Sec 1953):
スポーツ、ナンバーズ等様々なブック・メーキング、賭けプール等に使用される記録、器具、チケット、証明書、トーケン、紙などの機材器具を、通常の輸送手段以外の方法により、州際間で輸送することを禁止する内容になる。特定の賭博に用いられる用具や機材の販売に障害を設ける目的がある。旅行法は賭博行為に限定せず、より広い非合法活動を対象にしたが、この法は明確に対象を特定化している。また旅行法では非合法活動に参加する意思が前提となったが、この法ではかかる意思は不要である。
この様に、60年代初頭の様々な連邦法制は、州際間の制度の隙間を悪用し、犯罪組織が動いた事実に対応するための措置でもあった。但し、通信技術の発展やコンピューター、インターネット等の技術革新に伴い、州境も国境をも超える活動が活発化しており、上記規制は実質的に変容せざるを得ない状況が以後生じてくる。事実が先行し、制度的措置が遅れ、旧態依然とした状況が生まれたという好例でもある。