現代に連なる米国におけるロッテリー賭博は、長年に亘る禁止時代の後に、1964年にニューハンプシャー州で再開されたことがその嚆矢となっている。州の財政難に伴いロッテリーを再開したということがその背景になるが、これが大きな成功を収めたことにより、その他の州も率先して、類似的な制度を構築し、瞬く間に国中に広がり、現在に至っている。現在ではロッテリー賭博を主催している州は米国本土のみで42州並びにワシントン特別行政区となり、全国に24万の販売アウトレットが存在し、売上は2009年レベルで582.53億㌦(税収は176.29億㌦)、2010年レベルで売り上げは588.16億㌦(税益は178.7億㌦)に達している(出所:North American Association of State & Provincial Lotteries, NASPL)。これらロッテリー事業の過半は、州政府が直接運営する事業でもあり、州政府の収益事業として実施されていることが通例である。通常、州政府の財務省等の傘下に独立した行政委員会としての「ロッテリー委員会」(Lottery Commission)を設置し、規制と監督・監視を委ね(詳細規則制定、予算、発行条件等の承認、公聴会等の開催、運営の監視等が主業務となる)、販売等は州政府のエージェンシーが担う形式をとる。この州ロッテリー委員会は知事の指名を得て、議会の承認を得た民間人から構成されるが、場合によっては、州政府の財務長官等行政官が任命されるケースもある。この委員会の下に知事が任命する執行役員(Executive Director)を配置し、専任事務局を設け、これが実際の業務及び管理を担う。
収益は専ら州内の地方政府(郡、市町村)への配分が主となる州が多いが、一般財源にしたり公共目的特定財源にしたりする州等もある。ゲームそのものが単純であるがために、米国でも人気のある賭博種になる。枠組みとしては施行に関与する者が不正を行うことができないシステム、制度として構築され、健全な遊び、遊興として庶民の中で定着している。ロッテリーの人気はインスタントくじやビッグなど多種多様な商品の品揃えが揃っているという事情があると共に、1996年以降は複数の州が単一共同事業として行う、複数州主催ロッテリー等も人気を呼んでいる。販売エージェントと実際の胴元とのシステム化やシステム連携は技術の進展と共に進行しており、効率的なチケット販売のシステムが生まれている。一方、1961年連邦「有線法」により、電話等の通信手段を用いて州際間、州外の賭博行為を為すことは現在でも禁止されており、類似的な発想からインターネットを通じてロッテリー・チケットを州境を超えて販売することも禁止されているという法解釈があった。2009年イリノイ州、ニューヨーク州は連邦司法省に照会し、2011年12月の連邦司法省見解により1996年有線法はスポーツ・ブッキングのみに限定するという法解釈の変更がなされ、以後、ロッテリーの自由なネット販売が可能となる道筋が開けた。この結果、2012年3月よりイリノイ州では州民を対象としたインターネットによるロッテリー・チケット販売を始めている。この動きは、他州にも広がる様相にある。
このロッテリーは、制度的には下記特色がある。
① ロッテリーは米国では既に数十年間に亘り定着しているが、その目的は明確に税収増にあり、州政府にとっては、有効な財源の一つとして、定着している。基本は州単位となり、一部複数州による統合ロッテリーが存在するが、国(連邦)レベルのものは存在しない。
② 控除率や、収益分担の仕組みは州毎により異なる(例えばマサチュセッツ州では、69%が顧客賞金払い戻しとなり、31%が控除され、この内管理費用や発行費用で8%、エージェント・コミッション費用などで5.8%、その他費用等で残2%かかり、残りとなる5.2%が施行者の収益となる。収益は、人口率で傘下の基礎的自治体に分配、これら地方政府にとっては、一般財源の重要な一部になっている)。ロッテリー収入が地域社会の重要な財源となる場合、不況や景気変動により売り上げ・税収が減少した場合、歳入減に伴い歳入欠陥等の問題がおきそうな地域も無いわけではない。
③ 住民合意や許諾は他の賭博種と比較すると簡易で、反対が少ない(直接的なインパクトや固定施設が無いという事情もある。相対的に反発が少ない、やりやすい賭博種であると共に、リスクもなく、確実に安い費用で運営できるというメリットがあるためであろう)。規制の社会的コストは他の賭博種と比較すると明らかに安い。
④ 多様なゲーム種やインスタントくじ的なものなど提供する商品の種類を増やし、アウトレットを拡大することにより、売り上げを増やす努力が為されている。尚、一部州では、2000年代以降、ロッテリーを機械化、ネット化し、瞬間的にその結果を電子的に処理して、顧客から見るとスロット・マシーンに限りなく近い遊興の手段となるビデオ・ロッテリー・ターミナル(VLT)を導入している。これはロッテリーとスロット・マシーンの差異を限りなくなく無くしてしまう事象を現実にもたらしている。もっとも、このVLTの規制はロッテリーを所管するロッテリー委員会が所管することが通例で、中央コンピューター・サーバーを規制機関に設置し、全機械をオンラインで繋ぎ監視することが通例で、簡素化した規制や監視のシステムが採用されている。現状ゲーミング賭博は認めておらず、パリ・ミュチュエル賭博としてのロッテリーが実施されている州の場合であっても、かかるVLTの登場により、実質的にはスロット・カジノが生まれてしまっている。技術の発展は、賭博種の差を限りなく無くしつつあるという事例でもあろう。