米国における競馬の歴史は建国と共に古く、殖民地時代の1665年にニューヨークのロングアイランドで始まったのがその端緒といわれている。組織的に競馬が行われるようになったのは19世紀半ば以降で、1890年には既に314の競馬場が全米に存在した。賭博行為は固定オッズ方式で、馬主による趣味的な行為が伝統的な競馬賭博の姿でもあった。一方20世紀初頭の国民の反賭博感情により殆ど全ての州でこの賭博手法が禁止となり、一旦衰退しかけたが、1908年にパリ・ミュチュエル方式が競技賭博に導入されたことにより、再度人気を得て、息を吹き返したという経緯がある(これは、馬主と顧客との一対一の賭け事ではなく、システム的に総賭け金を纏め、プール化し、ここからから税、費用を控除し、残額を勝者で分配するという顧客間同志での賭け事へと転換したことを意味する。これにより賭博行為の透明性と公平性が格段と向上し、売上も拡大することになった)。
競馬(グレイハウンド犬競技も含む)に関する賭け事は他の賭博と同様に、州政府管轄事項となり、州法の規定に基づき実施され、関係する主体は、州政府規制機関の免許を受け、その行動は規制の対象となる。また、競技自体は免許を得た民間主体(非営利のNPOであることが多い)が主催する。通常の場合、州政府の機関となる行政委員会としての「競馬競技委員会」ないしは「競技委員会」(Horse Racing CommissionないしはRacing Commission)が規制当局として設置される。この委員会は、複数名の委員から構成され、知事による指名を得て、議会における認証により任命される。委員会は独自の事務局を設けることになり、執行役員(Executive Director)がこれを掌理し、その下に技術専門職や職員を配置する。賭け金はトータリゼーターと呼ばれるコンピューター・システムにより処理されるため、不正や悪が入りにくく、法の執行のあり方に関しては簡素化し、他の賭博種と同じ部局が担ったり、特別の体制をとったりしていない州が多い(法律により、州警察が競技委員会の要請に基づき法の執行を担保し、違法行為を取り締まるという形式がとられることなどが通例である)。
この競技委員会の主要な業務は下記等になる。
① 管理者(Steward),繋駕競争審判員(Harness Judge)を任命し、これらを経由し、全ての競馬に関する規則の制定、判定等のルールの決定。
② 賞金、勝ち金の大きさ、賭け方を判断、決定し、入場料を徴収する場合、その金額を決定。
③ 競技に関係するあるいは参加する全ての関係者の審査およびこれらに対する免許(ライセンス)の付与(法及び規則違反行為があった場合には、これを剥奪できる権利を含む)。
④ 税、料金等の徴収、またこれらの分配(平均的には総賭け金の17%が控除され、83%が顧客の勝者に分配される。控除金が分配される主体は、州政府~税~、競馬を主催する競馬場主催者と馬主、騎手である。尚、税金の分配も法により定めることが通例であり、関係する地方政府、周辺市町村、関係する馬関連の団体、様々な公的主体等、きめ細かく予算配分のあり方までを規定する場合が多い)。
⑤ 不平・不満等があった場合の公聴会の開催、及び判断。
⑥ テストラボの運営と維持、馬種強化プログラムの支援等。
また通常、インタートラック競馬賭博という複数の競馬場でのレースを映像画面で提供して、これに賭けることや、サテライト・サイマルキャスト賭博という形で衛星を用いた実況中継を外部に提供し、場外で賭け事をすることが殆どの州で実施されている。またオンラインによる競馬賭博や場外での賭博(サテライト・ベッテイング、場外パーラー)も多くの州で認められてはいるが、税収遺漏を防ぐため、他州からオンラインによる競馬賭博を自州の州民に対して提供することを禁止する措置をとっている州もある。尚、オンラインによる競馬の州際間取引は2000年の「州際間競馬法」の改定により例外的に認められており、現在では、実際の競馬場よりも、オンライン・サイトの方に活気がある(現場中継、ビデオ生放映等多様な仕組みが取り入れらており、実態はコンピューター画面ながら、競馬場にいる臨場感を保持している)。一方、他の賭博種と異なり、顧客の勝ち分が、300倍の勝率で5,000㌦以上の勝ちの場合には、連邦税法により、25%の源泉徴収となる(1986年内国歳入法に基づくもので、当初は1,000㌦であったが1992年に5,000㌦に引き上げられた)。
尚、一般的な趨勢としては、我が国と同様に、伝統的なパリ・ミュチュエル賭博となる競馬、グレイハウンド犬競技などは、米国においても一定の市場規模は保持しているとはいえ、市場自体は段階的に縮減している。2006年から2009年の間に、国民の競馬に対する賭け金額は16.7%も減少している(148億㌦から123億㌦への減少)。新たな顧客層を増やせないこと、顧客にとっての余暇の選択肢が増えたこと、相対的に魅力が減少したこと、時間をかけて競技自体をも楽しむという賭け事が若い世代にはフィットしないこと等により、人気は下降気味であり、市場規模は低迷しているといっても過言ではない。