1970年代の多くの米国州法では、賭博行為は禁止され、かつ違反行為には刑法上の罰則を設けていた。一方、州政府自らが税収増大のために行う賭博行為(例:ロッテリー)や宗教団体等が慈善目的の為に活動資金を集めるビンゴ賭博などは、その公益性により、例外的に認められていたのが現実である。米国先住民であるインデイアン部族は1800年以降、特定の居留地に押し込められ、連邦政府や州政府とは異なった主権を持つ民族として特異な自治を構成していたが、1970年以降は、全米の中でも最も貧困を極める少数民族でもあった。彼らが困窮の中において、伝統的に部族にあったゲーム等の賭博行為を根拠とし、(州法では認められていないが、教会で類似的な行為として行われている以上)自らも部族自治の範囲の中で、自治区の中で、白人を顧客とするビンゴの賭博行為を主催することができると考えたのも、当然の成り行きかもしれない。居留地は僻地にあるが、周辺で賭博行為が認められていない環境であるならば、確実に集客することができ、事業として成立させることが可能になる。州政府が教会等に特定の賭博行為を許諾したり、ロッテリー賭博を自ら実践したりしているならば、本来、その居留地において独自の自治権を保持している先住民部族が同様の賭け事を自らの居留地内で提供して何が悪いのかというのが当時の部族の主張でもあった。
80年代以降、かかる背景に基づく、一部先住民部族によるビンゴ賭博は、米国民の大きな人気を呼び、州法で認められた慈善活動等の場合以上の大きな賞金を出すように、射幸心を煽る形で発展していった。複数の州政府は当然これを違法として厳格に規制し、摘発する動きにでた。これに伴い、この州政府による部族の摘発が合法か否かという法律上の問題が生じてしまった。連邦法で明示的に認められていない限り、米国先住民の居留地区で州法を適用することはできないとする基本的な考えが長年に亘り形成されてきたという背景があったからである。この結果、州政府と部族政府との様々な法廷闘争が始まってしまった。
1953年に連邦議会で成立した通称公法第280号(18 USC Sec 1162, 28 USC Sc1360, 25 USC Sec 1321-1326) は係争の一当事者が先住民である訴訟事案においては先住民居留地においても州の刑法を適用し、州の裁判所が関与することができると規定している。州政府はこれを法的根拠として、米国先住民部族を規制できると判断したわけである。この公法第280号を根拠として、州法となる刑法を先住民部族の賭博行為に適用できるか否かは、1987年カリフォルニア州と同州のキャバソン部族との係争に関する連邦最高裁の判決(480 US202 (1987))で明らかになった。連邦最高裁は、州政府の主張を退け、公法第280号の民事部分は州政府に対し、先住民を一当事者とする「係争の管轄権」を州裁判所に与えているのみであり、先住民居留地区において先住民の「活動を規制する管轄権」を州政府に与えるものではないと判旨した。州政府は公法第280号の範囲内において、居留地区を含む州内に適用される刑法に準拠することによってのみ、特定の活動を規制する権限を保持できるということになる。よって、州政府の刑法により全面的に禁止されている活動は公法第280号により先住民(インデイアン)居留区にも適用されることを意味する。逆に、連邦裁判所は、規制の対象ではあるが、明示的に州政府が認めているあらゆる活動は、公法第280号の範疇に入らないとした。
この判決は、もし州政府が一般的に賭博行為を禁止していながら、例えば慈善団体等に対し一定の慈善目的の為の賭博行為を認めたり、自らがロッテリー等の賭博を例外的に運営していたりしたならば、米国先住民も同様にこれら賭博行為を担う権利があることを意味している。最終的な判断根拠は州政府の公共政策として、如何なる活動が認められるかということになるのであろう。この判例に基づき、米国原住民がその居留地において、賭博行為としてのゲーミングを提供する行為が法理としては可能な状態になった。これに伴い、連邦政府としては、何等かの制度的枠組みを設け、一定の規制と秩序の中でこれを実現せざるを得ない状況が生まれたといえる。この結果制定された連邦法が、1987年米国「連邦先住民ゲーミング規制法」(Indian Gaming Regulatory Act、通称IGRA法、公法00-497 , 25 USC Sec 2701)である。 極めて例外的になるが、米国先住民部族の福祉向上、救済のために特例的に、先住民居留地区において、一定の条件の下に、賭博の施行を認める内容になる。
この制度的枠組みを構築した結果として、連邦政府自らが規制者になり、連邦政府が認知した部族により、連邦政府が信託の対象として供与した部族の居留地において、部族の自治の下で実施され、提供される賭博行為ないしはその賭博施設を「インデイアン・カジノ」ないしは「先住民部族カジノ」と呼称している。もちろんこの施設は通常の米国人を顧客とするものであり、顧客の立場から見た場合、通常の商業的ゲーミング・カジノ施設となんら変わるものではない。