米国では、1988年連邦先住民ゲーミング規制法(IGRA法)により、一定の規範・規律のもとに、米国先住民が自らの居留地において賭博行為を商業的に提供できる制度的枠組みが構築されている。この法は、連邦政府により正式に認知された先住民部族が、連邦政府が信託の対象とした原住民居留地においてのみ、特例的に商業的な賭博行為の施行を認める内容となる。この法の施行を担うため、連邦政府内務省に国の機関・規制者として「米国先住民ゲーミング委員会」(The National Indian Gaming Commission, 通称NIGC)が創設された。このNIGCは米国連邦政府の独立した規制機関として、議長並びに6名の委員(常勤で3年の任期)により運営される。委員長は大統領による指名で上院の認証が必要,また内務大臣がその他の委員を指名する。(実態は殆どの委員が部族の中から指名されている。また事務局は、連邦政府内務省が担っている)。
先住民ゲーミング規制法(IGRA法)は興味深いことに、許諾されるゲームの種類をそのリスクに応じて、三分類し、この分類毎に管轄権の主体と規制の在り方を変えるという考え方をとった。これがより現実に近いというプラグマテイックな考え方をとったのであろう。
即ち
① クラスI:(部族の専権)
社交的なゲームで賭け金も少ない伝統的な部族の儀式や祭事の際に行われるゲーム種となる。部族が排他的な専権を持ち、自らこれを規制し、実施できる。
② クラスII:(連邦政府監視下で部族の管轄権)
(ハウス・バンキングが為されない、即ち胴元が賭け事に介在しない)顧客同志が賭けあうゲーム種で、ビンゴ、プルタブ、パンチ・ボ-ド等のゲームになり、州法により明示的に禁止されていないゲーム種が対象となる。これらゲーム種は連邦政府の監視のもとに部族が規制の管轄権を保持する。即ち、部族と連邦政府の二者が関与する。
③ クラスIII:(州政府同意を必要とし、連邦政府認可の下での自主管理)
上記以外のその他全てのゲーム種をいい、いわゆるゲーミング・カジノを構成するすべてのゲームが対象になる。実施の為には部族~州政府間での協定が必要となる。かつ、部族が自ら制定する規則によりその施行を規制の対象とし、更に、連邦政府(NIGC)による認可を前提とする。即ち、州政府同意取得、連邦政府認可取得が必要になる。尚、州政府同意に際しては通常州政府と部族間で収益金分担を取り決める(慣行として、スロット・マシーン粗収益の一定%を州政府が徴収する。粗収益の10~20%相当額となることが多いが、スロット収益はテーブルよりも大きい、安定的な収益であるために、関連州政府にとっても大きな税収を期待できる)という枠組みが通例となる。即ち、部族、州政府、連邦政府の三者が関与する。
所謂カジノにおけるスロット・マシーンや代表的なテーブル・ゲーム等は、全てクラスIIIの範疇に入る。クラスI,IIは部族の裁量が効き、ある程度自由に施行できるが、これだけでは、顧客にとり魅力は少なく、集客力も小さい。クラスIIIに関しては州政府の事前合意取得が必要で自由に施行はできないが、集客力の高い施設を志向できる。実際の人気を呼ぶ部族カジノとはクラスIIとIIIを含むものとなり、こうなると機能的には通常の商業的カジノとそん色の無い施設となる。
制度自体の目的は米国原住民の福祉を向上させ、彼らに何らかの経済的活動の手段を与え、これにより部族を救済し、部族が自らの自治と努力により、経済的に自活できるようにすることにあった。ゲーミング・カジノはその為の誘引でもあり、部族に特権的に与えられた権利ともなった。かかる理由により、部族にとっては、余程の事情が無い限り、限りなくクラスIIとクラスIIIの賭博行為にかかわる許諾や協定が実現しやすい仕組みが制度として構築されている(例えば、部族と州の交渉がうまくいかない場合、段階的な調停の仕組みがビルトインされ、それでもうまくいかない場合、連邦内務大臣令により、実現できる枠組みが規定された。もしハードルが高ければ、そもそも、施設は実現できず、これでは部族支援にはなりにくいからである)。尚、クラスIIのビンゴだけならば過小資本でも可能であろうが、クラスIIIになると相応の投資も必要になってくる。殆どの部族は、資本の根源的蓄積があるわけではなく、施設を整備する資金力も、経営力も能力もなかった。現実的に生じた事象は、部族が米国民間事業者と包括的な開発契約を締結し、彼らに投資を実施させ、運営管理も委ねつつ、部族とリスクと便益を分担しあう仕組みが志向された(この意味では運営、経営という観点からは、部族はオーナー、施行者として君臨するが、実際は米国民間事業者に運営委託しており、自らが運営しているわけではない)。この契約行為とその内容は当然連邦政府の許可対象になると共に、地域における公共安全と秩序を維持するために、州政府もこれら事業者やその構成員の適格性認証に関与することが通例となる。
勿論、その後、部族の中には、当初の試みをうまく成功させ、外部からの受託者を排除し、段階的に自らの資本力、経営力、能力を向上させ、巨大な産業資本へと発展した部族も一部には存在する。