米国先住民ゲーミング委員会(NIGC)は先住民部族カジノを規制する連邦政府の規制機関であるが、事務局機能は内務省が担っている。部族による自治を認めつつ、関連する州政府と協調し、所掌を連邦政府と州政府で分担しながら一見重複しうる構図で、施行を規制する。その目的は組織悪やその他の汚職・腐敗などの影響から部族を隔離し、米国先住民居留地における部族による商業的賭博行為が健全かつ安全、公正に運営されることを担保することにある。
この目的を達成するため、法は委員会に対し、下記権限を付与している。
① 部族賭博施設を対象に、一時的に事業所閉鎖を命令できる権利、
② 法律(IGRA法)違反行為に対する民事上の罰金の賦課とその徴収、
③ 部族が制定するクラスII、IIIのゲーム種に係わる内部的な部族政令や規則等の認可・認証権、
④ クラスII、クラスIIIのゲーム種の運営に関し、民間運営事業者と包括的管理委託契約(Management Contract)をする場合、その認可・認証権、
⑤ 施設の検査、調査、全ての記録・帳簿等へのアクセス権、必要な場合、関連主体に係わる背面調査・監査・検査の実施権、
⑥ 法律の施行に関する詳細規則等の制定権。
部族は米国内において、独自の自治権を保持していることから、あくまでも部族自体に管理組織を構築させ、自ら規則等を制定させることにより自主、自立的な管理をさせることが基本となる。一方、部族が制定する規則等は全て連邦委員会の認可の対象となり、様々な規範等に関しても連邦政府委員会による規則やガイドラインが制定されている。部族が締結する重要契約も委員会による認可の対象となる。また連邦委員会は部族の担う業務に対し、監査・検査・査察などの包括的権限を有している。一方連邦委員会は、部族との契約行為に基づきこれら業に従事したり、投資したりする個人・企業の背面調査をFBI等の協力を得て実施し、その適格性を確認したり、実際のゲームの行為の監視とレビューを実践し維持すること、財政的な帰結をチェックすること、IGRA法違反行為、委員会規則への違反行為を摘発し、部族の安全・資産・業に従事している職員・一般公衆を危殆に瀕する行為を防ぎ、かかる違反行為に適切な罰則を設けること等を実践している。
上記は一般規定となるが、実際のカジノとなるクラスIIIの運営には、部族と州政府の間における協定(これをCompactと呼称する)の規定により、州政府が関与することになるため、複雑化する。州政府にとっては、部族の収益から確実に税収を確保し、徴収すること、州民や顧客に対し施行の健全性・安全性を確保し、悪や不正を排除した施行を保持させることに関しては極めて重大なインテレストをもっている。かかる事情により、監視や管理に関する仕組みは複雑化し、州政府と連邦政府の間において、業務自体が仕分けされ、合理的に分担されることが通例となる。例えば実際の賭博関連業務に従事する職員の就労許可ライセンス(米国先住民の場合もあれば普通の米国市民ということもありうる)、関連しうる納入業者、サービス提供業者、機械ゲーム納入業者などのライセンス認可、あるいは使用される機械ゲームの認証などに関しては(連邦政府ではなく)専ら州政府の所掌となることが多い(勿論制度上、連邦政府がより効果的な場合には連邦政府が担うこともできるが、業務量が多く、実務的ではなくなる)。また関連しうる主体は、通常の米国市民や米国企業となるため、部族の能力をもってしては犯歴もチェックできず、背面調査も効果的に実施することは不可能であり、部族ではなく、州政府がこれを担うことが極めて合理的な考えになる。またカジノ場内の公共秩序と安全の維持は専ら部族警察がこれを担うことになるが、現実的には州警察が部族警察と同様の権限を保持し、彼らと共に、監視等に関与するという複雑かつ重層的な監視のシステムが実行されている。この目的を達成するため、州政府の中に、専任規制当局を設け、許認可や法の執行を担う体制が取られている。
現実の仕組みが複雑になったのは、やはり部族のみの自主権に委ねただけでは徹底的に甘いシステムと秩序が米国社会の中に生まれてしまうと判断したためであろう。部族の能力と権限のみで悪や組織悪を排除することは不可能であり、足りない部分を如何に埋め合わせているかという構図としてみた方が理解しやすい。勿論州政府にとっても、①協定に基づき、しっかり税収を確保すること、②部族居留地とはいえ、顧客は州民である以上、秩序を維持することに大きなインタレストがあったことは間違いない。
尚、連邦政府機関であるNGICの予算・費用は、一般財源ではなく、部族が施行するクラスIIとクラスIIIの粗収益から一定率を徴収することで賄われている(毎年改定され2011年レベルでは0.074%となり極めて少額でしかない)。また、当然のことながら、州政府による規制の費用は、協定(Compact)の規定に基づき、別途部族の施行収益から補償される。