クラスIIIのゲーミングを実施できる先住民部族は連邦政府から正式に認知された部族で、かつ連邦政府が信託に付した居留地でカジノを施行する必要がある。この二つの要件は絶対であり、これらを満たすことのできる部族であることが、全ての前提条件となる(連邦政府が認知していない「部族」も存在する。また、本来先住民部族居留地とは、連邦政府が取得し、信託に付して部族が居住する土地であるため、これも限定され、どこにでもあるというわけではない)。
実現のために部族が具体的に取る手順とは、上記要件を満たす部族が州政府に対し書面により、カジノを実施するための協定(Compact)を交渉したい旨を通告する。通告を受領した場合、州政府は誠意をもって部族と交渉する義務がある。もし州政府が交渉に入るのを拒否したり、誠意がなかったりした場合、部族はこれを連邦政府地区裁判所に提訴できる。この場合、州政府は誠意をもって交渉したことを立証せざるを得なくなる。交渉ないしは、法に定められた第三者調停手続きが不調に終わる場合には、部族は最終的に連邦政府内務大臣による個別認可により、(州政府意向に拘わらず)協定の枠組みを固定することができる。部族に対するこのような救済策が、詳細に定義されているのは、法の趣旨自体が、弱い立場にある部族の救済でもあり、できうる限り部族の主張が通りやすい仕組みとして制度自体が構成されているという理由による。
尚、制度はこの様に部族を保護する立場で規定されているが、現実には連邦政府内務大臣が登場し、裁定を下すに至った案件は無く、必ず妥協により、部族~州政府の合意が成立している。州政府にとっても、例え州法で禁止されてはいても、連邦法を根拠に実現されるならば、地域社会の公共秩序を保持しつつ、施行から財政的メリットを取ることで妥協することの方が明らかに得策となるという勘定が働くからでもあろう。かつ、協定(Compact)により、一定の規制に州政府も関与できることになる。連邦政府にとっても、州政府が何らかの形で積極的に部族カジノの施行管理や監視に関与することは、連邦政府の負担が軽減することにもなり、本来好ましい考えになる。全てを連邦政府が管理・監視することは不可能に近く、実際の施行管理や現場における対応は、優れて州政府に依存せざるを得ない状況にあるからである。この意味では、部族カジノの制度とは、連邦政府、州政府と部族政府の三者による妥協の産物に近い。
連邦政府、州政府、部族政府の上記関係は、部族に直接関係する制度上の問題は連邦政府の所掌となり、それ以外の実務的側面は、部族政府を主体にしながらも、州政府がこれを補完しつつ、適切に監視・監督するという考えに近い。勿論、州政府の関与の度合いや、州政府として如何に先住民カジノを位置づけ、管理するかに関しては、州毎に異なる。例えばカリフォルニア州では、商業的カジノ賭博施設は認められていないが、異なった先住民部族と締結された協定の数は現在までに66となり、州独自となる管理・監視の為の行政委員会を設けて、全体市場の管理をしている。同州では、部族カジノこそが、州における許諾賭博でもあり、これ以上に商業的カジノ施設を設ける必要性はないのであろう。
尚、州政府と部族間で締結される協定(Compact)を如何なる内容・条件とするかに関しては連邦政府(NIGC)のガイドラインは存在するが、法律上特段の規定は無い。かかる事情により、多様な考え、手法が実践されている。但し、当然のことながらこの協定は連邦政府・委員会による認可の対象となる。協定では、クラスIIIのゲームの内容が定義されると共に、刑法上・民事上の州政府・部族政府の管轄権の整理、ライセンス(許諾)の在り方、ゲーム内容に係わる規制、ゲーム運営に関する標準、収益分担(スロット収益の一定率例えば10~20%等とすることが多い)、規制や監視の在り方、これに伴う州政府の直接的な関与等が規定される。この協定は(州政府議会の批准を得て)連邦政府内務大臣により、官報にその許可が公表され、始めて有効になる。また、協定等は全てその内容が公開されている。
問題をさらに複雑化するのは、多くの場合、部族はカジノ施設を整備する資金も、運営する能力もなく、公募により米国民間企業を選定し、この企業と包括委託契約(Management Contract)を締結し、資金調達、建設、施設の運営・維持管理を包括的に委ね、リスクと収益を分担する仕組みを構成したことにある。この場合、部族はリスクと利益を分担する単なるオーナーにすぎず、実質的な運営主体は受託を担う民間事業者とその職員になる。部族を連邦法で規制するだけでは意味が無く、実務を担う実際の運営主体を規制する必要があるが、州政府がこれを分担する仕組みが通例となっている。
部族カジノの複雑さは、制度、主体の複雑さと共に、この様に、一部は法による規範により規制・監視されると共に、他方では、州政府・部族の協定並びに部族と民間事業者との包括委託契約という具合に、協定・契約に基づく規制と監視の仕組みが存在し、複数の考え方が共生し、初めて全体が機能するという事情があることによる。