米国には5,570万エーカーに及ぶ土地が先住民部族の為に信託され、これら居留地には 連邦政府が認知した562もの異なった米国先住民部族(インデイアン)が存在する。この内、2011年においてゲーミングを業として実施する部族は246部族、即ち約半数に達し、彼らが担う事業の総数は422施設になる(施設設置数と、これを運営する実際の部族の数が一致しないのは、州政府との協定~Compact~次第では、一つの協定から複数のカジノ施設の設置・運営を可能にするものがあり、一つの部族が複数の施設を運営していることがあるからである)。法制定後、年々数が増えつつあるのは連邦政府に対し、新たな認知を求める「部族」がいまだ存在し、一部これが認められていると共に、他部族の成功に触発され、新たにカジノ施行を試みる部族が次から次に出てきているという事情による。この意味では部族カジノは一種の利権となっており、連邦政府の認知を取り付けることができれば、巨額の資金を生む仕組みを作ることができると想定されるため、常に申請が絶えないという笑えない事情がある。全施設の内、247施設がスロット・マシーンやその他のテーブル・ゲームを備えた本格的なカジノ施設(即ちクラスIIIのカジノ)となっている(残りの施設は小規模で、スロット・マシーンではなく、ビンゴやその他の機械ゲーム等を設置したものが主体である)。これら施設は米国の28州にまたがり存在し、2011年レベルで全ての先住民部族によるゲーミング総粗収益(GGR)は年272億㌦規模に達し、産業全体で約60万人以上の雇用を創出し、州政府に対し総額21億㌦の税収を生み出している(出所:連邦ゲーミング規制委員会)。
米国における各種賭博の比較データによると、1990年代後半以降、確実に、かつ年毎に、部族カジノの施設数は継続的に増えつつある。一部族による成功体験が、ドミノのように他の部族に広がり、カジノを収益の糧としようとする動きが拡大したことがその発展の理由である。この結果、米国先住民カジノは施設数、粗収益規模においても、通常の商業的カジノ施設に匹敵しうる大きさになりつつある。毎年施設数と施行規模が確実に増えていること、施行の規模も大型化しつつあること等がその理由である。
これに伴い、全体の先住民部族カジノがもたらす総粗収益も年毎に飛躍的に拡大している。1995年レベルから見ても、5年毎に総粗収益は全体として倍化する成長を示しており、年平均20%以上の成長を示したことになる。これは新たな参入が多く、供給が増え、需要がこれを支えたため、全体の収益レベルが向上したという理由による。過去10年における全体としての成長はすざましいが、部族毎の地域の特性や背景となる市場の構造などにより部族間の大きな格差が生まれてしまっている。近隣に同種施設がなく、かつ後背地に巨大人口を抱える大都市圏がある場合、確実に当該施設は競争力を高め、巨額の事業収益をあげることが可能になる。この結果、これら施設においては規模の拡大化が加速され、これが更に、収益のレベルを高めてしまうという構図になった(例えばマサチュセッツ州のマシャンタケット・ペコー族、モヒガン族の施設は、ニューヨークやボストンという巨大都市に近く、その地理的優位性を武器に巨大化した事例になる)。一方、人口過疎地帯にあり、都市圏より遥かに離れた地点となる居留地においては、顧客を惹きつける要素が少なく、必ずしも充分な利益を上げる事業とはならないことも多い。この様に、規模が大きく成功している部族は存在するが、過半の部族は、相応の収益を上げているとはいえ、大きな成功を収めているとは言い難い状況にある。この格差は極めて大きく、一部部族による寡占化の傾向がみられる。上位20の部族が全体収益の55.5%を占めているのが現実である。
勿論この事実は、政策としての先住民ゲーミング規制法が失敗したということではない。むしろ米国における最も困窮した経済状態にあった先住民部族に、従来の政策手段では不可能でもあった効果的な経済的恩恵と経済的自立の手段を与えることに成功したことは間違いない。僻地でもあった居留地における社会インフラの整備や、先住民の医療や教育レベル、生活レベルの向上は、カジノの収益が大きなドライバーとなり、初めて実現したという事実を否定することはできない。但し、現実に存在する地域間の部族カジノの地域差を是正する仕組みは連邦政府には存在しない(一つの州内に幾多の部族と部族カジノが存在するカリフォルニア州では、部族間利益配分信託基金~RSTF~を設け、売上の一部を州政府に供託し、カジノを施行しない部族に分配することで、部族間の格差を是正する仕組みがあるが、あくまでも一つの州内の試みでしかない)。