スロット・マシーンは射幸性の強い賭博機械で、連邦先住民ゲーミング規制法上はクラスIIIに分類され、厳格な規制の対象になる。また、このスロット・マシーンの事業性に着目して、その粗収益が州政府と部族との利益分担の対象となるという慣行が定着したために、部族の裁量により単純に予め決められた設置数を増減したりすることはできない。一方、クラスIIIではない類似的な賭博機械をクラスIIの定義範疇の中でもし作ることができれば、厳格な規制の対象外になり、州政府による利益分担の対象から外れ、かつ、部族の管轄権限の範囲内でこれを自由に設置することが可能になる。連邦原住民ゲーミング規制法はクラスIIのゲーム種を「ビンゴと通常呼称されるチャンスのゲームと同じ場所で実施される場合、プルタブ、ロト、パンチ・ボード、チップ・ジャー、インスタント・ビンゴ等ビンゴと類似的なゲームを含む」とし、「かかるゲームは電子的、コンピューターないしは技術的支援を用いて実施できる」が「電子的、電子機械的電送によるチャンスのゲームないしはスロット・マシーンを含まない」と定義している。
技術の発達は、本来電子化、機械化はできないものと考えられていたこのクラスIIに属するロト、インスタント・ビンゴ、ビンゴ等を機械の電子端末を通じて供給できるようになってきたために、かかる定義となったという経緯がある。定義としては必ずしも明確とは言い難いが、この法律上の曖昧な定義を根拠として、明らかにクラスIIIではないが、クラスIIIに限りなく機能的に近いクラスIIに分類される賭博機械、すなわちスロット・マシーンに限りなく近いがスロットではないという電子機械が技術的に考案されてしまった。これを「クラスIIの機械ゲーム」というが、瞬く間に、数多くの部族がこれを採用することになり、市場において大量にの機械が出回ってしまった。
通常のスロット・マシーンは、個別機械毎に乱数発生器が設置され、個別機械と人間との一対一の賭け事になる。即ち、スピンの回転の結果は、固有の乱数発生器により決まる。一方クラスIIの機械ゲームとは、この機械自身ではスピンの結果を決められない仕組みになっている。ちょうどビンゴのカードを持っていても、ビンゴの数を引くのは別の人で、これが任意の数を選び、その結果が勝者と敗者を決めるのと同じ様に、個別の機械が一定のカードを持っていると考える。別途設置された中央コンピューターが一定の数を引き、この結果を何十、何百の端末機械に瞬時に伝え、これがどのカード(機械端末)があたりかを決めるという仕組みになる。要はクラスIIの機械はビンゴを遊ぶための端末(ターミナル)であって、ビンゴ自体は別のシステムにより運営されているという建前を取ることになる。この前提は、サーバーは当たりくじを引くが、胴元となるサーバーが賭け事に参加しているわけではなく、あくまでも「顧客同志が競争し、賭け合っている」という形式をとる(但し、サーバーのあたりの提示と、端末における顧客の選択等の全ての作動はナノ秒単位で電子的に行われるため、顧客から見た場合、通常のスロット・マシーンとの大きな差異を見出すことはできない。いや顧客から見た場合、これはスロット・マシーン以外の何物でもない)。
問題は、法律上のクラスIIの定義の曖昧さにつけこんで、法の網をくぐる機械が生まれてきたということにある。この結果、クラスIIとクラスIIIの仕分けや定義が曖昧になり、技術の発展と賭博市場の急速な発展は、この境目を法律としても、実態としても極めて曖昧なものにしてしまった。クラスIIのゲームである場合、部族は州政府と協定を合意する義務はなく、当然のことながら州政府は規制力をもたず、部族は一方的に機械を設置することができる。かつ州政府と当該収益を分担する必要もなくなってしまう。これは州政府の管轄範囲外で、限りなくクラスIIIに近いゲームを部族は自由に設置できることを意味する。
勿論連邦先住民ゲーミング規制委員会(NIGCC)もこの事態を放置していたわけではない。2002年に法律の定義の解釈を変えたと共に、2005年に法律の定義そのものを変えることを企図し、2006年に規制のための規則改正の案文を公開した。一方、クラスIIのゲームを所有し、その結果を享受していた部族は死活問題として、大きな政治的反対運動がおこり、結局妥協により、グレーな要素を残しつつ、現状を追認する規定改正となってしまった。クラスIIのゲームは州政府と協定を締結しないビンゴを中心としたゲーム種のみを提供する多くの中小部族カジノ(純粋にはカジノとはいえない)で提供され、既に彼らの重要な収益の一部を構成していたという現実があった。また、関連機械メーカーを含め、利害関係者は多岐に亘り、これを一挙に禁止すれば、訴訟を含めた様々な混乱が避けられず、黙認せざるを得ないという現実的な判断となったのであろう。また、下級審での裁判では、部族と機械メーカーの主張が全面的に採用されている判例もあったという背景もある。
もっとも話はこれで終わらないのは、連邦議会の一部には、未だに根強い反対論がある。クラスIIの機械ゲームを何等かの法的手段で規制しない限り、州政府との協定は全く意味がなくなると共に、クラスIIの機械がクラスIIIの機械に限りなく近づいている以上、同等の規制が必要ではないのかとする主張である。将来的にこれがどういう方向に決着するのかは必ずしも明確ではない。技術の発展が制度を曖昧にし、現実が制度を凌駕してしまった事例になる。