リバーボート・カジノとは、所謂就航型カジノ船舶とでもいうべき施設であり、船内に様々のスロット・マシーンやテーブル・ゲーム等の賭博設備を設置した船舶となる。一日のうち、一定時間河川を航行し、この航行している間においてのみ船舶内で賭博行為を楽しむことができるというしかけである。一見合理的なように思えるが、実はこの船上カジノは、施行する側にとっても、顧客の側にとっても、必ずしも面白い内容の施設ではない。なんとなれば、動いている船舶の場合には船舶による振動もあり、航行状況によっては必ずしもゲームに集中することができない。また負けても、一定時間に亘り、船舶の中に閉じ込められ、退出できないことになる。施行者にとっても、安全上入場者数を限定せざるを得ないことという事情があると共に、閉鎖的空間となるため、理論的にはペイするはずのリバーボート・カジノは、期待したほどの収益をあげられないというのが実態でもあった。明らかに稼働している船舶よりも、施設が固定され、顧客が自由に出入りできる施設の中で賭博行為を営むことができうれば、運営の柔軟性が増え、費用も減り、かつ顧客が増える。また、賭け事消費の時間が増え、それだけ売り上げや収益が増えるということになる。顧客はボートに乗ることが目的ではなく、カジノで遊ぶことが目的である。ボート観光とカジノは一見シナジーをもたらすと考えがちだが、実態は逆の効果が表れたということであろう。リバーボート・カジノは関連する州法に基づき、航行の義務や航行時におけるゲーム運営等の細則が規定されており、柔軟な運用もできにくいという事情も存在した。
顧客が増えることは事業者の利益のみならず、税収も増えることになる。そこで制度を変え、①船舶として河川の上に存在するが、航行を義務付けない、ないしは②バージとして浮いてはいるが、常にドックに係留したままの半固定施設として、その中でカジノを運営させることが認められることになった。あるいは低地の施設のまわりに運河を掘削し、ドックサイドとみなすなどの本末転倒の施設も生まれてしまった。これら施設をドックサイド・カジノという。何のことはない。一応施設は河川の上に浮いてはいる、あるいは浮いているように見えるが、実際は動かないわけで、限りなく陸上設置型カジノに近い固定した施設ということになってしまう。税収をより多く確保したいとする為政者と、事業収益を確実に確保したいとする民間施行者の意思がかみ合わさり、実現したことになるが、本来は就航することが建前でもあったため、現実に合わせた妥協の産物でもあった。但し、当初のリバーボート・カジノに関する法制を変えずに、この一部修正により妥協を図ったため、制度的には何ともおかしな位置づけの施設になってしまっている。航行しないで浮いて入ればよく、最も費用のかからない、顧客にとっても陸上施設と変わらない形の船舶とは、一種のバージであって、埠頭に係留したバージとすれば、限りなく、地上施設と変わらなくなってしまう。かかるドックサイド・カジノが存在するのは、ミシシッピ州、イリノイ州などになる。一部州では、単純に今まで航行していた船舶を、固定係留させ、係留地点での営業を認めたところ、たちまち、売上や税収が伸びたという事実も存在する。
改めて制度議論をして、州憲法を改定し、制度を作るよりも、既存の船舶を主体にした賭博の制度を活用しつつ、航行上でしか賭博行為を開帳できないという規定をはずしたり、一日の営業時間中必ず航行する義務を免除したりすることにより、航行しない場合でも賭博行為を開帳することができるようにしたにすぎない。確かに議論をせずに小幅の改定で、現実を変えてしまうことができたわけだが、これでは本来の法律が志向したリバーボート・カジノとはいえなくなってしまう。実際のニーズに合わせて、 法律そのものを実態に合わせてしまったということになる。
2005年の米国南部諸州を襲ったカトリナ・ハリケーンはミシシッピ川河口地区(ガルフポート)に存在したこれらドックサイド・カジノに壊滅的な被害をもたらした。浮遊構造であったため、風や波にはもともともろく、何と施設が横転したり、施設が浮き上がり他の場所に移動してしまったりしたなどの珍事象が生じてしまった。強風や大波には弱く、ひとたまりもなかったことになる。観光地に税収をもたらしていたカジノ施設が瞬時に消えたわけで、知事・議会は民間カジノ施行者に早期復旧を促した。一方、民間事業者はフロートする施設では類似的な災害が将来生じうるとして、制度を変え、陸上設置型カジノを認めることを復旧の前提とすることを要求した。この交渉の結果、復旧を早めるために、知事・議会は、2005年下院法案HB44号により、水上設置型と明記されてある法律を、「内陸に800フィート入った沿岸にある施設」として陸上に変える定義を追記することにより、実質的に陸上カジノに変えてしまった。こうなると、例え800フィートであっても、バージではなく、基礎が陸上に固定されたカジノ施設になる。危機に乗じて、制度を変えてしまったことになるが、水辺に限りなく近い陸地であることは間違いない。これが結果的にその後短期間に30億㌦の投資をもたらし、観光再生に資することになった。尚、2009年インデイアナ州では、リバーボート・カジノのライセンスを地上設置型カジノとしてのライセンスに提案できる法案が提示された(法案SB-405 )が何と5000万㌦のフィーを支払えばという前提付きでもあり、2/3の事業者が高すぎると反対、法案の帰趨が宙に浮いてしまった等という事例もある。