1988年連邦米国先住民ゲーミング規制法(IGRA)に基づき、米国先住民たるインデイアン部族は自らの居留地の中で、雇用と収益を確保するために商業的賭博行為をすることが認められている。これを「インデイアン・カジノ」(Indian Casin)と呼称する。一方、州法に基づき一定の州内において施行の許諾を受けた通常の陸上設置型ゲーミング・カジノ施設を「商業的カジノ」(Commercial Casino)と呼称し、これらを区別している。現実的には、どちらの施設もその顧客の全ては普通の米国人でもあり、施設が提供するサービスに変わりはない。一方、この二つの間では制度や、管理、監視の仕組み等はかなり異なる。もっともインデイアン・カジノであっても、米国の民間運営事業者が部族から委託を受けて、投資し、運営を担っているケースが多く、顧客の立場から見た場合殆どが同じであって、何がインデイアンでインデイアンでないのかはまず理解できず、その差異を見つけることは難しいともいえる。何処にこれらの差異があるのか。
まずインデイアン・カジノとは、あくまでも連邦政府が認知した米国先住民がその居留地内で、自らの自治に基づき、ゲーミングをビジネスとする行為を為すことを一定の条件つきで認めるという制度的枠組みになる。この意味では通常、その地点は都市から離れた僻地でもあり、そこへ行くことすら大変な地点であることを理解する必要がある。勿論例え僻地であっても、周辺に類似施設が無く、背景に巨大人口を抱える都市がある場合には、十分な集客力を発揮できることがある(施設の事業性は、市場次第でもあり、居留地の戦略的、地理的な位置に大きく依存してしまう)。これに比較すると商業的カジノは、当然のことながら、確実に事業性のある、かつ利便性、集客力に優れた都市部、リゾート地以外に設置されることはない。あるいは集客できることが前提の地点選定になる。例えばラスベガスは砂漠のど真ん中の都市だが、全米の都市との飛行機のアクセスがあり、都市と空港が一体化しているため、利便性は極めて高いという利点を持っている。
規制という観点からは、商業的カジノは、州政府の規制が殆どで、一部連邦政府関連の規制が絡んでくるという事情になる。一方、インデイアン・カジノの場合には、連邦政府、州政府、部族政府と三層に亘り、規制を受ける。また部族はその収益を部族政府の運営、経済開発、部族の福祉以外に使用することはできない。連邦法は部族カジノの場合、ゲーム種毎に規制と関与する主体の在り方を変えている。クラスIのゲームとは、部族による伝統的なゲームで大きな賭け金の対象とはならない。クラスIIのゲームとはビンゴ、プルタブその他、顧客同士が賭け合うゲームをいう。一方クラスIIIのゲームが、射幸性の高い全てのカジノ・ゲームでもあり、ルーレットや様々なテーブル・ゲーム、クラップス、スロット・マシーンを含むものになる。単純なゲーム種やリスクのない賭け事は部族に委ねるが、リスクが大きい賭博種は、厳格に連邦政府自身が規制するという論理でもある。これらインデイアン・ゲーミングは、内務省に設置された独立機関である連邦先住民ゲーミング委員会(NIGC)が規制し、管理している。クラスIは部族の所管、クラスII は部族が管理するとともに、連邦政府の規則に従い、クラスIIIの場合には、連邦政府が管理するが、同時に州政府も協定により、管理に関与し、一部収益を分担する仕組みになる。
部族にとりゲーミングとは居留地でできる数少ない経済活動でもあり、その収益は全て部族民の福祉と公益に用いられることが前提である。現状28州で422のクラスIIないしはIIIのゲームを運営する施設が存在し、2011年、これら先住民部族のゲーム粗収益は$272億㌦に達している。もっとも全ての部族が成功しているわけではなく地理的に辺鄙な場所に存在する居留地の部族では、効果的な集客ができず、成功しているとは言い難い状況にある(237部族のうち、粗収益が2,500万㌦以下の部族が全体の56%、また138の部族の粗収益は1,000万㌦以下でしかない)。一方、成功した部族に関しては、当該部族のみならず、関連する地域社会や州政府も大きな恩恵を受けている。従業員は部族外の者が多く、地域の雇用確保に貢献するとともに、州政府との契約に基づく収益分担により、州財政に貢献している側面もある。