レイシーノ(Racino)等といっても普通の日本人には何のことやら理解することができない。レース(RaceあるいはRacetrack)とカジノ(Casino)を掛け合わせた造語で、何のことはない、競馬場に併設してスロット(VLT)・カジノを設置した施設になる。競馬に対する人気の低迷、収益の落ち込みは、米国でも日本と同様で、この人気を何とか挽回する目的で、競馬場に機械ゲーミング賭博施設を併設することにより、相乗効果を実現し、競馬もスロット・カジノも双方が利益をもたらすことを考えるという仕組みが創出されたわけである。さてこの競馬場に併設されるスロット・カジノだが、スロットというよりもビデオ・ロッテリー・ターミナル(VLT)であることがほとんどとなる。生半可でないのは、設置台数は数千台から四千台くらいまで上る施設もあり、これに何とホテルを併設し、総合レジャー施設として売り出している案件すらある。もっともこの人気はVLTのみにあり、レイシーノは収益を確実に上げている成長株でもあるのだが、馬券の売り上げには相乗効果を発揮していないという調査結果もある模様だ(同じ顧客が競馬とVLTを楽しむというシナジーではなく、VLTは競馬とは異なる全く新しい顧客層をもたらし、全体としての売上が伸びたということであろう)。かつ、競馬場の主催者がスロット・カジノを運営しているわけではない。VLT施設が併設され、スロット・カジノの収益の一部が競馬関係者にも分配されることが前提となるため、競馬関係者にとっても当然経済的メリットはあることになる。
興味深いのは、かかる施設が設置され、実現したのは、米国東部、中西部など所謂商業的カジノ施設が周辺地域に存在しない州で、競馬場が歴史的に存在している州になる。人口が密集する大都市地区よりさほど離れていない場所に競馬場が立地しているという背景もあり、ゲーミング賭博施設がない状況の下での代替遊興施設として、人気を博したということが実態であろう。表向きは競馬との相乗効果ということなのだが、同じ場所に設置されているとはいえ、隣接せず、距離をおいてVLT施設を設置したりしていること、全く遊び方が違うこと、VLTは閉鎖施設空間に設置され、競馬施設とリンクしたり、併設はされるが、その中にあるわけではないこと等より、必ずしも客層は一致しているわけではない。もっとも新しい顧客層を競馬場に呼び込んだということは言える。2010年現在全米13州で総計47施設もあり、総粗収益は67.49億㌦、雇用も2.9万人に達している。
レイシーノに設置されるのは前述のごとくVLTになるが、制度の在り方としては、カジノを主体とするゲーミング賭博とは若干趣を異にする。所管する規制当局はロッテリーと同じ州政府のロッテリー管理委員会であることが多く、(実体面では限りなくスロット・マシーンに近いのだが)、制度の在り方としてはロッテリーくじと全く同じ考え方、手法、規制の在り方をとっている。あるいは場合によっては競馬を所管する競技委員会(Racing Commission)が何らかの形で関与することもある。全てサーバー集中管理型の一種のパリミュチュエル賭博を瞬時に行っているという考えなのであろうが、この意味では、確かに不正が入る余地もなく、規制も監視もすぐれて簡素化されたものになっており、バンキング・ゲームの規制や監視の仕組みはここにはない。施行者の考え方や施設の設置の在り方も独特でこれは州によって異なる。一部の州では、民間施行者に免許(ライセンス)を与え、民間が機材や施設を整備、費用分担し、運営、収益を政府や競馬関係者と分担する(南部の諸州はこの考え方になる)。一方他の州では、州政府が施設や機材の整備・費用分担と施設・機材を所有し、民にこの運営を委ね、その他のステークホルダーと共に収益を分担しあうという考えもある(所謂公設民営手法になる。東部のデラウエア州、ニューヨーク州、ロードアイランド州、西バージニア州等はかかる考えをとる)。但し、運営やリスク分担の在り方は、これら諸州でも様々なバリエーションが存在し、必ずしも常に一定であるということは無い。
レイシーノの特色は、①施設としては競馬場とVLT施設は別のものであること、②顧客と対峙するのは電子機械の端末であり、中央サーバーで全てをシステム的に管理できること、③デイーラーは不要で、労働力はあまり必要とせず、資本力があれば、短期間に確実に設置でき、かつ確実に収益、税収増に繋がること、④為政者にとっても、既存の競馬場に併設するだけである以上、住民同意や利害関係者との合意を取り付けやすいこと(かつ確実に税収増に繋がること)、⑤低迷している競馬関連者に対する合理的な補助金のシステムたりうること、⑥運営は簡単で、不正も起こりにくく、既存の制度(ロッテリー)の改定により実現できるという建前をとれば、制度的にも単純化して実施できること等にある。東部諸州における一部のレイシーノでは、テーブル・ゲームの設置も認め、規模も大型化している。この場合、最早、レイシーノという括りでは説明できない一般的なゲーミング・カジノ施設に近い施設にまで発展したと考えることがより適切である。