このニュー・ジャージー州の規制のあり方は、その後のモデルともなったと述べたが、如何なる点が特色なのであろうか。同州の規制と制度の考え方は、一定の明確な政策目的を達成するために、限定的に施行されたモデルになる。この考えが、米国その他の州並びに諸外国により模倣された基本的な考えでもあった。
このニュー・ジャージー州の制度の特徴的な要素は下記になる。
① 地域限定、市場管理モデル:
制度の基本的考えは、州内のどこにでもカジノを建設してよいという考えではなく、あくまでもアトランテイック市のみに限定し、同市を再生するために、同市内に、居住区とは離れた一定の区域(ゾーニング)を設け、この市の一定区域内のみ、一定数を上限として、施行を認めるという考えであった。賭博行為の提供は、この区域の許諾されたリゾート施設の内部のみにて可能とし、ホテル等を併設する主体にのみ、カジノライセンスを付与する前提とした。これは、地域を限定し、市場を管理する考えになる。当時、ニューヨークやフィラデルフィア等の人口を抱えた大都市周辺には類似的な賭博遊興施設は存在せず、一定の地域的独占を保持できる可能性が存在し、ここに着目し、大企業の投資誘致を図ったことになる。
② 政策目的は地域再生、手段はカジノを核とする複合施設と投資誘致:
目的は州内の著名なリゾート市でもあったアトランテイック市の再生であり、カジノを核とした地域再開発・地域再生・経済振興を狙い、これにより地域にとっての雇用増、税収増を実現することにあった。カジノ施設はカジノ・ホテルであることが要求され、500室以上のホテルを併設すること、リゾートに相応しい宿泊、飲食などのアメニテイーがあること等がライセンス付与の条件ともなった。市の再生に貢献できる投資を確約することを許諾の前提としたわけである。これはカジノを単純な遊興施設としてとらえず、あくまでも市の再生という政策目的に資する複合的な観光施設として把握し、その実現を企図する考えでもあった。地域における既存の観光産業を温存し、この基調を変えずに、かつこれら活動が新しい施設に統合されることを期待していたためとされている。また、一定数の施設を一定区画に集中的に誘致し、施設群のハブ化、集合化を企図し、一定の枠内で競争させ、集客効果を高めるという狙いもあった。
③ 税収は州内の住民、及び地域社会への還元に充当:
総粗収益課税(対売上課税)は8%となり、規制機関が賦課・徴収し、高齢者・心身障害者費用に支出するとともに、アトランテイック市以外のコミュニテイー(郡市町)にもその一部を配分し、州民全体の同意を得る工夫がなされている。また、総粗収益の1.25%相当額を(粗収益税とは別に)州政府の機関であるカジノ再投資開発機構(CRDA)が選定し、認知したプロジェクトに対し、再投資する義務を課している(投資を行わない場合、代替的な税となる選択肢が制度的に設けられたが、全事業者は再投資を選択している)。ライセンス料、様々な徴収費用、罰金等も特定の勘定(カジノ管理基金)に納入して管理し、州政府の規制機関・法執行機関の費用は全てここから補てんする仕組みとなる。制度構築にあたり、予め収益の配分目的を州民に開示する手法は、以後様々な地域で効果的な手法として用いられた。
④ 零からの制度構築と、悪、不正、組織悪を完璧に排除する効果的な制度構築:
何もないところにまず、制度設計から考え、これを確実に実現したこと、また、これに伴いカジノ・リゾートを誘致し、成功したという事例は当時迄前例がないことでもあった。ニュー・ジャージー州はニューヨークにも隣接し、同市隣接地域では、過去組織犯罪との長い問題が存在した歴史も存在した。この意味では、賭博行為を当初から、如何に健全化し、安全かつ公正さを保持できる存在にするかに関し、住民の関心も高く、ここに細心の注意が図られ、制度構築が図られたことになる。制度と法の執行の厳格度はネバダ州法以上でもあり、ネバダ州の経験や制度をうまく取り入れながらも、独自の制度を形成している。その基本コンセプトは、以後現代的なゲーミング賭博法制の典型的なモデルとして様々な国々や地域において模倣され、現在に至っている。
2010年時点では、ニュー・ジャージー州アトランテイック市には11のカジノ施設、1,573台のテーブル・ゲーム、28,113台のスロット・マシーンが存在し、年総粗収益35.6億㌦規模の市場に成長している。2008~2009年の不況以降、成長は低迷し、近隣州に類似的な施設ができ、かつこの数が増えつつあることより、独占が崩れ、他地域との競合が生じており、売上・税収も大きく減少しつつある。この傾向は、現在でも継続しており、同州は新たな課題を抱えているといえる。