米国ニュー・ジャージー州における規制と監視の枠組みは、ネバダ州における基本的な考え方を踏襲してはいるが同じではない。同州は、ニューヨーク市に隣接しており、過去、組織暴力と長い問題を抱えた歴史がある。賭博行為自体を如何に健全化するかにつき特段の関心事があったという事情から、これを実践する様々な考え方が制度に反映されていることがその特徴となる。この意味ではネバダ州以上に、緻密かつ厳格な制度となり、監視や管理はかなり重層的かつ慎重なシステムが取り入れられている。この結果、関係しうる主体にとり、かなりコストが高くなる制度や規制の在り方になっている。
ニュー・ジャージー州も一般的な規制と監視の構図はネバダ州とその基本は類似的でもあり、規制機関となる行政委員会であるニュー・ジャージー州カジノ管理委員会 (Casino Control Commission) と法の執行を担うゲーミング法執行局 (Division of Gaming Enforcement, DGE)から構成され、規制機関と法の執行を担う機関との役割を峻別する。一方、ネバダ州との大きな差異は委員会が独立の組織を保持し、かつその規模も役割も大きいことにある。これとは別の組織として、法執行当局が存在し、明らかに一部機能と役割は重複する形で規制と監視が実施される点にあった。この意味では、ネバダ州のような縦型の二層構造ではなく、並列的な構造で規制機関と法の執行機関が牽制しながら、対峙している形になる。
各々の基本的な役割や権限は下記の通りとなる。
規制機関となるカジノ管理委員会は、政治、行政から独立した州の規制機関としての行政委員会で、委員5名により構成される。委員は、知事による指名、上院の承認が必要で、任期は5年。常勤となり、正当な理由がない限り解任されない。特色としては、委員会としての独自の組織、職員を保持し、2007年レベルで364人の職員を保持していた(法を執行する組織は別途存在するため、規制当局としてはかなり大きな組織になってしまう)。委員会は、カジノ管理法を所管し、これに基づき詳細規則を制定し、特許(ライセンス)を付与し、状況次第でその効力を保留したり,はく奪できたりする権限を保持する。またライセンス申請の評価並びに規則違反に関する罰金の評価、ライセンスに関する係争事由等に関しては準司法機関と位置付けられ、最終的な判断を下すことができる。カジノの日常業務モニターや検査、査察官の常駐、申請者の財務評価、コンプライアンスの状況チェックなどの実務も含まれているが、ネバダ州ではこれら実務は、規制機関ではなく、法の執行を担う機関の業務になる。ニュー・ジャージー州では類似的業務を二つの機関が平行的に処理している嫌いがあった。お互いが査察官を保持し、カジノ施設への自由な立ち入りと検査が可能な体制となっており、重層的な監視とモニタリングの体制がとられていると考えられなくもない。尚、規制機関の運営財源は全て事業者が支払うライセンス申請費用、ライセンス料・許諾料および罰金等を充当し、ゲーム税収をこのために充当することをしていない。よって、議会による予算配布を必要としない。委員会を政治の影響から隔離するための配慮となる。
では、法の執行は如何なる組織が担っているのであろうか?法の執行を担うのは州の法・公共安全省に帰属する組織で、州検事総長の下の一部局となるゲーミング法執行局(Division of Gaming Enforcement、略称DGE)である。ネバダ州の様に行政委員会が管理する組織ではなく、既存の行政組織の一部として運営がなされているが、業務はカジノ分野のみの専任となる。また、規制機関であるカジノ管理委員会とは全く切り離された組織となるが、2007年レベルで何と369人の専属職員を抱える(規制機関とほぼ同数になる)。この組織には州警察から63人、州犯罪判事局の検事24名が出向している。よって、ニュー・ジャージーでは二つの州の機関が相対峙し、並列的に存在し、お互いに拮抗しながらチェック・アンド・バランスを意図的にとった規制と監視の組織であるともいえる。11のカジノ施設を許諾したり、管理したりする為の行政機関とては、かなり大きな組織になってしまう。
ゲーミング法執行局(DGE)は、組織としては既存の公安・警察当局の一部になるが、極めて専門的な業務のみを行う行政部門になり、かつその規模は極めて大きいことが特色となった。その役割は、基本的にはカジノ管理委員会の要請に基づき ライセンスを申請した申請者の背面調査と、その結果をカジノ管理委員会に対し報告すること、また法順守の監視を担い、法の執行を担保することにある。職員は警察職員でもあり、逮捕特権を保持し、ライセンス申請並びに法規則等の違反の場合には、カジノ管理委員会に対し、提訴・告発し、告発者としての役割をも果たすことにある。但し、一部監視行為や調査分析行為に関しては、明らかに規制機関であるカジノ管理委員会の業務と重複する。もっとも、①チェック・アンド・バランスの体制を保持すること、②ミスや誤判断を避けることができること、③汚職や腐敗を不可能にすることなどから意図的に二重ワークの体制をとっているという意図もあった様である。
この仕組みは2011年の制度改革で根本的に変わることになる。