ニュー・ジャージー州の制度の特徴は、ゼロから構築した制度である為に、網羅的かつ体系的で、段階的に制度が構築されたネバダ州と比較すると相対的に理解しやすい法律の構成と内容になっている点にある。但し、ニュー・ジャージー州はニューヨーク市の隣に位置し、法制定当時のニューヨーク市にはまだマフィア組織の影が残っていたことを理解する必要がある。かかる事情により、必要以上に制度が厳格な内容になり、一部は規制当局、法の執行当局がダブルにチェックしたりするリダンダントな内容であったりした側面も多い。これらは、段階的に規制緩和の対象になり、時代の状況変化と共にその内容が緩和されている。「常識」的アプローチに戻ったとされているが、法や規則そのものをより、現実にフィットするようにした動きでもあろう。かかる状況に至った理由としては、①大企業の参入により、カジノ産業自体が成熟化したこと、②現実の施行の実践に伴い、カジノの健全性・安全性が確認され、制度的許容度がより高くなったこと、③規制機関も経験が豊富になり、管理の在り方を効率化できるようになったこと、④その他の州での経験・実績より、ニュー・ジャージー州のみがより厳格な規制を設けることの不利が段階的に認識されてきたこと等があげられる。
規制機関となるカジノ管理委員会は内部組織として、規則見直し委員会(Regulation Review Committee)を設置し、民間運営事業者等の意見を聴取しつつ、2011年までに100以上の制度改定を実施してきた(規制緩和の内容を見ると、如何に詳細に至るまで規制の対象にしたかを理解することができる)。主な制度改定・規制緩和の経緯は下記になる。
- 1978年:建設途上のカジノに対し、暫時的許可により、全ての投資が完工する前に、一部仮施設による早期運営開始を認め、早めに資金回収や収益を生むことができるように制度を改定。
- 1984年:法律上の再投資義務を活性化するためにカジノ再投資開発機構(CRDA)を創設(当初は再投資のメカニズムが無く、制度自体の活用ができなかったという事情もある)。
- 1988年:カジノの施設のM&A,売却等に伴う所有権移転、これに伴うライセンス認証手続きを効率化するために暫時的カジノ許可という制度を創設し、所有権移転や、委員会による認証手順をより速やかに実施できるように制度を改定。
- 1991年:クーリング・オフと呼ばれる一日の営業時間中の一定時間の運営を中止する時間帯の制度を廃止し、24時間継続的に賭博運営ができるように制度を改定した。また機関投資家の資格認証に関する規制機関の権利放棄を規定し、投資家が投資しやすくなる規制緩和を実施。一方、従前は、レストラン、ホテル等カジノ施設外に関しても、詳細なる施設運営規則等があったがこれらをすべて廃止。
- 1992年:委員会に新しいゲームを許諾する権限を付与。競馬のサイマルキャスト賭博をカジノ施設内部でできるように制度を改定。従来職員はカジノで遊ぶことは禁止されていたが、主要職員外の従業員は職場以外のカジノで遊ぶことが可能に。また24時間運営の新しいルールを採択。
- 1995年:ライセンスの更新期限を毎年ではなく4年毎とするように制度を改定。ホテル従業員に登録ライセンス制度を課していたがこれを廃止。職員の経験重視が判断基準にあったがこれを廃止。マーケッテイング手法は従来事前承認の対象であったが、この規定を廃止。
- 1996年:複数カジノ・ルームを許諾。ケノの販売は、特定場所以外は禁止されていたが、カジノ施設内に限りその販売の自由化。
- 2001年:依存症自己排除プログラムの実施義務を法令に明記。
- 2002年:公告禁止を廃止、ペイオフに商品ないしは価値ある物品を提供することの許諾、自己排除プログラムに関する個人情報の他州との共有、未成年賭博禁止措置の拡大、内部手順の簡素化など大幅な規制の改定。
- 2003年:マルチ・カジノ・スロットマシーン・システムの許諾、カジノ資本建設基金の創設(Casino Capital Construction Fund)。
- 2004年改定:マルチ・カジノ・プログレッシブ・スロット・マシーンの許諾。
他州の動向や、現実の商慣行、遊び自体の多様化や、機械・システムの著しい発展等に柔軟に対応し、これを制度の中に取り入れるように政策指針を変えてきたということがニュー・ジャージー州の実態であろう。2005~2006年にかけて、新たな施設や旧施設の更新等の建設ブームが生じ、売上は上昇機運にあったが、リーマン・ショック以降は反転し、毎年顧客数も減少し、売り上げも税収も減少するという状況が生じている。近隣諸州との競争も激化し、2011年に議会はカジノ管理法の大幅改正による規制緩和の実施や、インターネットポーカーの許諾等様々な市場活性化指針を打ち出した。結果、2012年以降、同州の制度や規制の仕組みもより効率化、簡素化する方向に軸足を移しつつあるといえる。