ミシガン州の規制と法の執行に係る機関は、これまでの他の州とは大きく異なり、一層構造になる。これには、①限られた地域、限られた施行数でもあり、規制の構造を簡素化し、できる限り既存の行政機構を活用することが合理的と考えられたこと、②組織悪をカジノから排除する手法は確立しつつあり、この基本は踏襲しつつも、簡素化できる側面は、実態に合わせて合理化すべきという合理的な考えに立脚したこと、という背景がある。法は規制当局としてのミシガン州「ゲーミング・コントロール・ボード」(Michigan Gaming Control Board~略称MGCB)を創設した。これはミシガン州財務省の内部に設置される州政府のI類型の機関となり、デトロイト市の3つのカジノのライセンスを付与し、規制し、管理するために設置されたものである。ボードは行政委員会方式で、5名の有識者委員により構成され、これが意思決定主体となる。委員は、知事の推薦により議会の承認を得て任命され、非常勤である。一方、このボードを事務的に支える事務部隊の長となる執行役員(Executive Director, 常勤かつ、知事による直接の任命になる行政官である)が日常的業務を掌理する。行政事務方(公務員)が実質的な業務を担い、判断のみを経営者ともいうべき行政委員会に委ねるという形式に近い。一方、法の執行を担保する組織は、あくまでも既存のミシガン州警察・デトロイト市警察局の一部を再構成することで対応し、全体の行政機構をあくまでもスリムな体制に留めることに様々な配慮がなされている。
このMGCBの主要な権限は下記となる。
① 三つのデトロイト市のカジノ施設の運営者・施行者に対し免許(ライセンス)を付与し、規制し、管理する独占的な権限。
② 法を適切に施行する為に必要となる詳細行政規則の制定権。
③ カジノの運営、機器機材の製造家、販売家、サービスの供給者、カジノ施設の職員、ゲームの参加者に対し、ライセンスを付与し、関連する規則を制定し、これらを管理・監視する権限。
④ 法・規則に対する違反・逸脱行為に対し、刑事上・民事上の罰金を課す権限。
⑤ カジノ運営事業者並びにカジノの関係者に対し、一定の税や料金、賦課金を課す権限。
⑥ カジノ税・ライセンス料等を徴収し、これを適切に配分する権限(州税の場合、州教育プログラムに対する優先的予算配分、州の社会資本整備財源、若者向けプログラム、デトロイト市救済財源等へ充当する場合の予算支出評価及び調整を担う)。
⑦ ボードの運営の為の基金の創設と管理、その他の州政府の施策となる依存症患者保護基金などの諸基金の管理運営権。
⑧ 賭博依存症患者、未成年による賭博行為を防止するためにカジノ運営事業者に対する措置等の取り決め権限。
⑨ 規制機関内部倫理規定などの策定権限(関係当事者等は政治献金禁止)。
尚、2009年知事命令第2009-45号により、従来、州農務省参加にあった州政府の機関で競馬を監督していた競技委員会(Racing Commission)の全ての権利、義務がMGCBの事務方である執行役員に委譲され、以後、MGCBが商業的カジノ、先住民部族カジノ及び競馬を包括的に管理・監督する仕組みになっている。異なった規制組織がバラバラに存在していた賭博関連業務を統一し、簡素化する動きは、他州にも存在し、新しい傾向ともいえる。職員総数は2010年レベルで113名(執行役員+秘書2名、総務部25名、競馬・監査技術部30名、ライセンス・規制部56名)になる。
ミシガン州の規制の主要な特徴は下記の通りである。
・規制は厳格、但し、規制のための行政組織は簡素化:
制度の骨格はニュー・ジャージー州と類似的だが、限られた施行数である以上(法律自体が3つ以上の商業カジノを認めていない)、監視や管理の仕組みを厳格にしつつも、これを担う行政府組織を大幅に簡素化すると共に、ややリダンダントでもある、ニュー・ジャージー州における重複的な行政システムを採用していない(できる限り、既存の行政システムを採用し、 行政組織をスリム化している点が特徴的な制度となる)。
・規制・監視の為の強力な調査権と監視権を保持する行政組織:
規制・監視の側面では強力な権限を独立した行政委員会であるMGCBに付与している。法律の執行面も、ゲーム関連に関しては内部に法の執行を担う独立的なセクションをも保持しており、これが、州警察・デトロイト市警察と連携して違法行為を摘発する。尚、ボードは強力な規則制定権、行政調査権を保持し、営業停止命令、不法行為の場合の差し押さえや没収を実施できる権限、行政罰を課したり、ライセンスを取り消したり、停止したりする強力な権限を保持している。