ミシガン州では、カジノの規制・監視という新たな機能を担う州政府のエージェンシー(ミシガン州「ゲーミング・コントロール・ボード」、MGCB)を規制機関として設立し、この新たな行政機関に、行政調査権や監視・監察・検査権、特権ライセンスの付与・停止・剥奪等あらゆる権限を付与する。一方、実際の法の執行は、公安・警察機構や司法機構等既存のシステムに委ね、この三つのカジノのためだけに法の執行組織を新たに設けているわけではない点に大きな特色がある。この意味では、既存の行政機構である州の司法省と州警察及びデトロイト市警察が規制機関となるMGCBをあらゆる側面から支援し、協力する体制がとられた。
州司法省のアルコール・賭博執行局は、カジノ、競馬、ロッテリー等複数の政府機関法令に関与し、MGCBに対し、広範囲のアドバイス、一般的な法的アドバイスを与えるとともに、州政府が当事者となる係争事由が生じた場合、州・MGCBを代表する。また同省の財務・ゲーミング犯罪摘発部があらゆるカジノ関連犯罪を摘発すると共に、懲罰に関する規範を定め、規制機関を支援する(2010年末レベルでフルタイムの職員換算でアルコール賭博法執行局に16名、財務・ゲーミング犯罪摘発部に7名という陣容になる)。
一方、州警察のゲーミング・ユニット(State Police Gaming Unit)は、31名の陣容で、あくまでも既存の州警察の一部局として、違法行為の摘発に協力する。州警察の役割は1997年の法律制定当時は、ラインセンス申請者の背面調査のみとされていたが、98年には内部に新たに、犯罪の摘発をも担う体制を作りMGCB支援を強化する形となった。一方、2001年には、再度方針が変更され、州警察内にあった調査ユニットは、本来MGCBが担うべき業務として、その実質的な機能をMGCBに移管した。これに伴い規制違反の摘発もMGCB係官に委ね、州警察は協力体制をとり、通常の犯罪摘発を担うように役割が変化しており、カジノにかかわる調査・違法行為摘発等は全て規制機関であるMGCBに一元化するという考えになった。結果、より強い権限を規制機関に与え、業務をここに集中させたことになる。この意味では、全面的な協力体制にはあるが、州警察の中で、カジノに関する実際の法の執行に関与する職員はその対象が一般犯罪に限定されるといってもよい。勿論これは対象となる施設が州都市内の三施設に限定されるという事情があったからであろう。
この様に、法の執行面でのミシガン州の特色は、
① できる限りスリム化した専門組織とし、その中で規制と法の執行を一元化した簡素な組織とした。かつ、既存の行政機構で使える機能や組織はそのまま用いたり、情報の共有や連携の仕組みを効率化したりして、必要となる組織をできる限り大きくしない工夫がある。
② このため、規制機関のみが新たに設けられ、ここに権限を集中し、必要な業務に関しては、既存の行政機構と連携しながらこれを行うという一層構造の体制となっている。勿論規制と法の執行は、内部的に峻別しており、規制の考え方自体はその他の州と類似的でもある。
③ 関係諸機関の協調と連携の仕組みが極めて効率的に機能している。2007年には複雑となる違法行為や不正行為に対処するために、違法賭博執行の為のタスクフォース(Gambling Enforcement Taskforce)がMGCB、司法省、州警察、財務省、アルコール管理委員会等の政府諸機関により組成され、効率的な監視や規制の枠組みが構築さている。行政組織間の調整や効率的な連携の仕組みは極めて良く、また2ヶ月ごとに政府関連部局が会合し、情報交換をしあう仕組みも制度化されている。
④ カジノ諸施設とのミシガン州公共安全コミュニケーションシステムを活用した緊密な連絡・関係性、協力体制が保持され、これが不法行為の監視・摘発(例えば顧客とデイーラーがつるんだいかさま、外部組織によるローン・シャーキング、暴力団等によるマネー・ロンダリング、カジノ外における違法賭博などの摘発等)に有効に機能している。
ネバダ州やニュー・ジャージー州の制度的実践は、他の州の制度設計にも大きな影響を与えたが、1990年代以降の制度構築は、より簡素化、合理化した規制のシステムを採用する方向となった。ミシガン州はその好例である。