ここ数年、主に米国東部諸州において新たに制度を構築し、限定された地区に施設数を限り、本格的な陸上設置型のゲーミング・カジノ施設の設置を企図する州が増えつつある。いずれも、従来には無い斬新な制度手法を採用しており、新しい試みとして注目を浴びている。留意すべき点は下記にある。
① 制度自身の簡素化・効率化:
厳格な参入条件や規制を実践するという前提に妥協をしているわけではないが、不要な手続きを省略したり、制度自体を合理化したりすることが考慮されており、伝統的なカジノ法制と比較するとかなり簡素化された制度となっている。
② 規制当局の完全透明化、手続きの透明化:
全ての委員会の議事はインターネットで中継、録画され、記録映像はネットでオープンになり、透明性は飛躍的に向上している(意志決定プロセスを市民は正確にフォローすることが可能になっている)。
特定の地域に、特定の事業者によるカジノ施設の設置を認めるという手順は、通常の場合、為政者が特定の地域を指定し、地域社会との合意形成を得ながら事業者を選定するという制度が採用され、かつ選定された事業者がライセンスの申請をし、規制機関がこれを審査・評価し、ライセンスを交付するという手順がとられる。但し、これではかなり長い期間を要する手続きになってしまう。これを合理化するために、民間事業者の提案自体の評価とライセンスの申請・審査・付与を含めてこれを二段階手順にし、再構成することにより、時間と費用とを合理化しようとする試みがマサチュセッツ州で実践されつつある。マサチュセッツ州は2011年11月に州内に3つのリゾート・カジノを設置する法律(Acts 2011 Chapter 194 An Act Establishing Expanded Gaming in Commonwealth)を議会で可決し、その実現と規制のために設置されたのが行政委員会としての「マサチュセッツ州ゲーミング委員会」 (Massachusetts Gaming Commission)である。この委員会により、新たに詳細規則が制定され、事業者を選定し、ライセンスを付与する手順が透明性のある形で進行しつつある。
州内の地理的に離れた3ヶ所という大まかな規定は法にあるのだが、実際の地域選定ないしは当初の発意は民間事業者が特定地域を指定し、当該コミュニティーから同意を取得する話をし始めたり、あるいは地域のコミュニティー自身が手を上げ、投資誘致という形で民間事業者の参画を募ったりするという手順で始まる。実際に行われている手順は、潜在的なカジノ事業者が州内の特定候補地域を指定し、土地を買収するか、地権者の将来土地売却合意等を得て、当該コミュニティーの同意取得のための手順に入る(この段階で強い反対があれば、そもそも前に進めない)。その後は法が想定した手順になるが、当初は、下記が想定されていた。
即ち
① カジノが設置されるホスト・コミュニティーはカジノ運営事業者と地域社会に係わる運営付帯義務に関し、交渉し、条件を決め、契約を締結できる(条件とは、例えば、雇用の確保、地域の下請け事業者への業務確保、道路や周辺インフラの整備等の確約等になる)
② 潜在的なホスト・コミュニティーは、カジノ運営事業者との上記契約を住民投票により住民の認証を取得する義務がある。
③ 上記コミュニティーの合意成立後、初めてカジノ事業者は、ゲーミング委員会に対し、ライセンスの申請ができ、審査を経てライセンスを取得し、初めて案件の枠組みを固定できる。事業者の申請の審査は背面調査を含めて通常2~6ヶ月はかかってしまう。
一方、マサチュセッツ州ゲーミング委員会は、上記通常の手順を変更し、ライセンス申請を二段階手順とすることで、費用と時間を節約する手法を採用する方針を決めた。入札・評価・事業者選定・当該事業者によるライセンス申請・審査・認可という行政手続きは極めて時間がかかり、運営に至るまで3~5年ということも珍しくない。時間を短縮することで費用を短縮でき、かつカジノをホストするコミュニティーにとっても費用を縮減することができる。これは下記手続きを意味する。
① ライセンス申請を行うと想定される潜在的な民間事業者は、まず規制機関であるマサチュセッツ州・ゲーミング委員会に対し、財務的健全性・清廉潔癖性に関する審査・背面調査を受けるべく申請する。この段階では、事業者は地点や提案の内容を開示する必要はない。民間事業者の資格審査をまず先行し、健全な事業者のみにクリアランスを与える。この段階で、不適格者は排除されることになる。
② 委員会が財務的健全性・清廉潔癖性に関し、認証する(あくまでも潜在的な契約者としての資格要件を満たすという意味でしかない。これのみではカジノの運営を担うライセンスは取得できたことにはならない)。
③ 上記認証取得後、民間事業者はコミュニティーの同意取得手続きに入り、地点を特定化する(コミュニティーを特定し、その合意を得られなければ、当該民間事業者は次のステップへと進めなくなる)。
④ コミュニティーの同意取得後、民間事業者は、運営ライセンスを取得するための包括的な申請を委員会に提出する(経済的評価、詳細事業範囲、財務的キャッシュフロー予想、地域社会における影響度評価等になり、これらが審査、評価の対象になり、最終的にライセンスを付与するか否かを委員会が判断する)。
時間のかかる審査手続きを二分し、適格性認証と具体化提案評価に分け、より効率的な選択・評価をしようとする動きになる。