通常のカジノとは機械式・電子式ゲームやテーブル・ゲーム等多種多様のゲーム賭博を提供する施設となるが、スロット・カジノ(スロット・パーラー)とは、テーブル・ゲームを一切設置させず、機械式・電子式ゲーム(基本的にはVLT)のみを設置した賭博遊興施設のことをいう。2000年代中葉以降の東部諸州で制度的に認められたもので、これをカジノと呼称すべきか否かに関しては異論もある。但し、技術の発達により、あらゆる種類の賭博ゲームが電子化、機械化され、ゲーム性も射幸性も十分高い、人気のある賭博施設にまで発展しているのが現実である。
この施設や関連する制度の大きな特徴は、
① 人間(デイーラー)の介在を廃した施設となり、施行者ないしはその職員によるスキミングの不正リスクは限りなく存在しなくなること、
② VLTの場合は100%そうなるが、通常の電子式スロット・マシーンや機械ゲームにおいても、全ての個別機械を規制当局の端末に繋げ、売上、払い戻し額、課税額を完璧に、オンラインで規制当局が把握できるシステムを構築し、これを実施することが前提となる場合が多い。この意味でも不正、脱税は余程の事情が無い限り起こり得ないこと、
③ これに伴い、簡素な制度や規制であっても、公平性を保持しつつ、施行の健全性と安全性を十分に確保できるという合理的な期待感と自信が生まれた。既存のパリ・ミュチュエル賭博と同様の管理監視体制を一部変容すれば可能であり、他州の様に、新たに複雑な許諾や監視の体制をとる必要性が無くなること、
にあった。一方、技術の進展は、テーブル・ゲームを電子化し、人間のデイーラーはいないが、電子画面上の擬人化されたデイーラーとゲームをすることを可能にしており(これをEテーブルと呼称する)、こうなるとその実態は限りなく通常のカジノに近いものになりつつある。勿論ここには、人間対人間という営みも、雰囲気も存在せず、これが面白いか否かは別次元の話になる。
新たにカジノ特有の制度や規制の枠組みを作ることなく、簡易な制度を志向できるという上記特徴は、競馬場に併設されるスロット・マシーン専用の賭博遊興施設(レイシーノ)に活用されることになった。競馬場の運営自体が既に一定の制度的な規制の枠組みで実施されている以上、これを活用して、既存の利害関係者を包摂しつつ、新たなスロット・マシーン専用カジノの制度と施行を試みることは左程複雑ではないからである。この場合、制度としては当然のことながら州法改定が必要となり、既存の制度を改定して、かかるスロット・マシーン専用カジノの併設許諾を認めることになる。一方、これと平行して、競馬場に併設しない、純粋なスロット・マシーンやビデオ・マシーン等の機械施設のみを設置するカジノを、大都市に設置させる試みも生じてしまった。簡素な規制で可能ならば、追加的に消費地に近いところにかかる施設を設置し、税収を確保するという衝動が為政者に生まれたためである。このようにスロット・カジノには二つの類型があるといえるが、かなりの東部諸州では、この両方が存在する。この場合、発端がビデオ・ロッテリー・ターミナル(VLT)である州の場合には、ロッテリーを規制する州政府の機関であるロッテリー委員会(Lottery Commission)が規制者となることも多い。あるいは、競馬を規制する競技委員会(Racing Commission)にこれを委ねるという考え方もある。いずれも、パリ・ミュチュエル賭博である以上、制度や規制の仕組みは極めて類似的となるため、既存の州政府機関を活用するという判断に基づくものであろう。
所謂デイーラーが賭博行為に介在するバンキング・ゲームが無い場合には、①制度や規制は簡素化できる(参入規制やライセンス制度そのものに変化はないが、要求される厳格度の程度は所謂フル・カジノと比較した場合、遥かに低くなる)と共に、②新たに賭博制度を導入する州にとっては、大きな制度的軋轢もなく、比較的スムースに施行を実現できる可能性が高くなる。一部州による競馬場併設型レイシーノの成功は、競馬場だけではなく、都市型のスロット・パーラー(スロット・カジノ)をも設置する方向に為政者を動機づけた。税収増への期待がその背景にある。ペンシルバニア州、デラウエア州、メリーランド州、ニューヨーク州、ロードアイランド州の東部各州は、2000年代に入り、いずれもがレイシーノ、スロット・カジノに関する法制度を構築し、これら施設をあくまでも地域限定的に実施しつつある(中途半端でないのは、これら施設は機械数千台を備えたかなりの施設規模になることにある。また、あくまでも設置場所、設置数、機械総数を限定した上で実施しており、どこにでも、自由にかかる施設が設置されているわけではない)。
2009年以降の動きは、上記が更に進化しつつある。例えば2010年1月6日ベンシルバニア州議会は、103対83で、既存のスロット専用カジノ・レイシーノにテーブル・ゲームを設置する法案を議決し、知事は同日これを認可してしまった。この結果、規模の大きなカジノ施設ではテーブル250台、リゾートカジノ施設ではテーブル50台の設置が可能になり、これでは最早スロット・カジノとはいえず、通常のカジノへと発展したと判断すべきであろう。ペンシルベニア州の場合には、その後6ヶ月以内に、規制や制度の細目が決定され、既に現実の施設となっている。