メリーランド州議会は、2007年同州憲法第4章、5章を改定し、ビデオ・ロッテリー・ターミナル(VLT)導入を決定した。2008年11月、州民投票により、これが同意され、憲法修正が実現した(4章は、VLT設置の判断基準と場所に関する規定で、設置するためには当該地区住民の過半の賛同を得る義務を規定する、5章は運営・規則等の枠組み規定である)。法律の内容は、州内に5ヶ所のビデオ・ロッテリー・ライセンス施設を認め、総数15,000台のVLT施設運営を認める内容になる。設置地点、各地点における設置総数は予めその上限が法律で規定され、最終的に何台設置するか、また如何なる事業者を選定するかは、設置希望数・一回払い支払い対価の多寡を対象とした入札により決定するとされ、これを「VLTライセンス入札」と呼称している。法律により定められた、上限数は郡毎に認められ、当初の考えは、下記になる(内、2ヶ所のみが純粋なスロット・カジノ施設というべきもので、その他は既存の競馬場にVLTを設置するレイシーノを想定している)。
- 4,750 台:Anne Arundel郡
- 3,750 台:Baltimore市(非住居地区)
- 2,500 台:Cecil郡
- 1,500 台:Allegany郡
- 2,500 台:Worcester郡
事業者選定は、この目的の為に設置される「ビデオ・ロッテリー施設地点選定委員会」(Video Lottery Facility Location Commission 、VLFLC) が公募に基づき、競争入札でこれを行うことが前提となった。この委員会は7名の委員で構成され、3名が知事、2名が上院議長、2名が下院総務代表による任命である。委員会の任務は、「施設の選定、機械メーカの選定、施設にて事業を担う協力企業の選定」になる。このビデオロッテリー・プログラムを、規制し、実施する主催者は1973年より州政府のロッテリーを所管する州の機関である「メリーランド・ロッテリー」(Maryland Lottery)となり、その長は知事による任命職である。興味深いのは、VLTの所有者、施設の主催者、スポンサーはあくまでも州政府になり、州政府の機関であるメリーランド・ロッテリーが、製造家からVLT機材を購入し、選定された運営事業者に機材をリースして、運営を委ねるという面白い手法を取る(民間事業者は機材の購入リスクや資金調達は不要だが、他の側面での投資義務を負い、州政府の代理人としてVLT施設を「運営」し、収益を分担することになる)。尚、このメリーランド・ロッテリーを監督する機関として州ロッテリー委員会(Maryland State Lottery Commission) があるが、(9名の行政委員会で4年任期、知事の任命、上院の同意を得て指名される)、2008年以降、VLTの規制と施行はこの委員会の責任となるような法改正がなされた。よってVLTに関する限り、委員会が規制者・監督者、メリーランド・ロッテリー(Maryland Lottery)は実質的な施行者で、この下に民間の委託運営事業者が存在するという所掌分担となっている。
確実に成功するという目論見なのであろうが、税率は高く何と粗収益の67%になる。かつ設置されるVLT500台につき300万㌦の初期ライセンス料を申請時に支払い、設置される500台毎に、応札者は、2,500万㌦相当額の関連する施設整備投資計画を含むことが入札の条件になった(よって台数を増やす提案をする場合、これに応じて設備投資義務が増えていくことになる)。またVLT一台毎に別途年425㌦の年次料金支払いも要求される。税率は高く、営業時間規制(8時~朝2時)があると共に、場内では飲食・アルコール飲料は禁止され、かなり厳格なルールが前提になる。
事業者選定判断基準は法定化されている。これには、経済効果、他州に顧客を取られぬ集客力、観光施設としての役割期待、施設整備投資と施設の競争性、売上規模、雇用貢献、追加的地域経済貢献、施設周辺インフラ、施設が近隣住民に与える否定的影響、施設がもたらす追加的公共施設需要等を列挙している。
税収は、教育信託基金に48.5%、競馬報奨金に7%(但し年1億㌦以下)、地域影響補助金に5.5%、競馬場補修支援勘定に2.5%(但し年4,000万㌦以下当初7年のみ)、弱者・女性所有事業支援勘定に1.5%として分配される。VLTを梃子に新たな教育資金の財源にというのが当初の制度構築の目的でもあった。2009年はリーマン・ショックに基づく不況の影響で実際の入札や施設展開は遅れており、最初の施設はCecil郡のHollywood Casinoで2010年9月に開業、二番目はWorcester郡のOceans Downs競馬場で2011年1月に開業、三番目はAnn Arundel郡で2012年6月に開業した。尚、メリーランド州ではロッテリー賭博税収は、所得税、販売税の次に大きい税源でもあり、税収に対する為政者の期待もそれだけ高いものになっている。
この動きは近隣各州におけるレイシーノの設置や、スロット・カジノの隆盛に触発された他州との競争という側面もあるが、スロット・マシーンやビデオ・マシーンの集積設置を競馬やロッテリー等の既存の賭博種の「延長」と考え、既存の制度の「拡大」により、これら賭博種を制度的に位置付けてしまうという新しい趨勢が生じていることを意味している。電子式機械賭博を、従来の様に、カジノの不可分の一要素として捉えるのではなく、より簡素で、確実に管理と監視ができる新しい賭博種としてこれを認め、規制するという考えにも繋がったわけである。