遊技施設が我が国のあらゆる町にあるように、賭博施設も、例えば全ての街角にあれば、ちょうどコンビニエンス・ストアの様に、手軽に、かつ安易に、遊べることが可能になる。賭博行為が限りなく単純化され、規範の統一が進み、ICT技術の発展により、不正やいかさまをコントロールできると為政者が判断した場合、かかる手軽な賭博施設を設けようという衝動が起こる。この様な施設の在り方をコンビニエンス・ギャンブリングと呼称し、専ら機械式・電子式スロット・マシーンやVLTを設置したスロット・パーラー的な施設を意味する。かかる施設が町中に設置されるということは、市民への賭博行為へのアクセスを容易にし、賭博依存症患者を増やすことに繋がるとして、無制限な施設設置を認めず、規制することが諸外国では通例である。
一方、逆の動きが一部米国の州では散見されるようになった。2008年から2009年にかけての不況、財政危機にある米国の諸州では、税収難から、新たな財源確保の為の試みとして、かかるコンビニエンス・ギャンブリングを認める方向性にある。イリノイ州は、リバー・ボート内部のみでのカジノが認められ、地上設置型のカジノは先住民部族カジノ以外には従来なかった。ところが、イリノイ州議会は、2009年に一種のコンビニエンス・ギャンブル法案を可決してしまった。「イリノイ州ビデオ・ゲーミング法」(Illinois Video Gaming Act of 2009、公法096-0034, 096-0027,096-0038) という。考えとしては、既存の法律を修正し、一定の認可・ライセンス制度を設けることにより、ビデオ・ポーカー、スロット・マシーン等の賭博機器を州内のバー、レストラン、トラック・サービス・ステーション、あるいは慈善団体、退役軍人組織が運営する施設等に1ヶ所につき最大5台を設置することを認める法律になる。
この法律の要点は下記になる。
① 実際の地方政府(市町村)は、住民投票の合意を得て、条例を定め、自らの地域においてビデオ・ゲーミングの設置を禁止できる(これをOpt outと呼称する)。
② ライセンスが必要とされる主体は、機械の製造家、販売家並びにターミナル(端末機器)オペレーター、設置施設になる。この内、ターミナル・オペレーターとは、ゲーミング端末機械を設置施設に設置し、ターミナル自体を所有、運営、維持管理する主体を言い、州内の5%以上の施設数を占有することは禁止されている。設置施設とは、イリノイ州アルコール・ライセンスを保持し、アルコール飲料が提供できる場所、退役軍人や慈善団体が集まる場所、トラック・サービスステーション等で、ターミナル・オペレーターとの契約により端末が設置される施設等をいう。21歳以下は端末で遊ぶことは禁止され、設置場所は教育・宗教施設、既存の賭博施設(リバーボート)からの一定距離を保持することが求められる。尚、全ての端末機械は、監査情報を提供するために中央コミュニケーション・システムに電子的にリンクされ、このシステムを通じ、規制機関が、自らの判断により任意に個別端末をシャット・ダウンし、管理できる仕組みを前提とする。
③ 既存のリバー・ボート・カジノの規制を担っていた州政府の機関である「イリノイ州・ゲーミング・コントロール・ボード」(Illinoi Gaming Control Board, GCB)が規制機関となり、州警察が支援し、法の執行を担うことになる。また、全てのライセンス申請者は、申請に伴い規制当局・公安当局による背面調査の対象になる(申請者の5%以上の発行済み有効株式を保持する株主も同様。また当該対象行為に関し、1%以上の直接的間接的経済的利益を保持する者の情報開示義務がある)。ライセンス料は申請時に$50~$5,000、その後毎年$100~$10,000で主体毎に異なる。
④ 端末機器の純収入の30%が収税として徴収され、内25%が州政府、5%が関連市町村の取り分になる。残70%が運営者と施設設置者の取り分になる(運営者が別途銀行口座を開設し、全ての税金は、毎月15日締め、15日以内に納付となる。税支払い後の収益は、オペレーターと設置者で50/50で分割することを前提とする。2008年には、リバーボート・カジノには9,955台の機械ゲームが存在し、1日1台当たりの平均売上げは$375になる。ここから類推すると、州内に45,000台設置すれば、最低でも機械1台あたり年$42,000の粗収益があるのではと当初想定されていた。
法律は2009年に成立しているが、司法上のチャレンジを受けたり、全体の管理・監視システムを設計し、これを開発したりするシステム事業者の選定が遅れたため、実際のゲーム機械が市場に投入されたのは2012年10月となった。シカゴその他の市町村の中には,Opt outし、結果的に認めなかった市町村も多く、当面341のライセンスが付与され、州内65ヶ所での運営から始まっている。
この制度の仕組みは、一定の集客のある場所に、ライセンス制度を設けて、機械ゲームを分散して設置するという考え方になるが、その実態は、我が国のパチンコホールや、豪州のスロット・パーラーに近い。この様に、電子式機械ゲームは、管理や監視が格段に簡素化・合理化され、既存の制度の枠組みの中で出来ると判断されるようになったために、米国の為政者にとっては、効果的な税収確保の一手法となりつつある。