カナダ連邦刑法はギャンブル行為を原則禁止し、刑罰の対象としている。一方、1969年の刑法改定により、刑法第207条に例外規定が設けられ、ロッテリー賭博等に関しては、州政府の管轄下で特例的なライセンスにより許諾される場合、刑法上の違法性が阻却されることになった。これに伴い,まず1970年にケベック州で州政府主催による競馬、ロッテリー賭博が始まり、70年代にはほぼ全ての州において、税収増を目的として、ロッテリー賭博が施行されている。
1973年連邦政府はモントリオール・オリンピックの財源捻出のために、連邦政府自身が公社を設立し、ロッテリー賭博に参加した。これは大きな成功を納めたが、オリンピック終了後も存続されたため、結果的に州政府のロッテリー収益を連邦政府が横取りすることになり、州政府の大きな反発を食らうことになった。1985年連邦政府と州政府との間に妥協が生じ、①連邦政府はロッテリー賭博から撤退する事、②三年間にわたり、州政府は各州の売上に応じ比例配分で1億カナダ㌦を連邦政府に支払う事、③刑法上、ロッテリー、ゲーミング・カジノを施行する独占権限を州政府に付与するよう刑法を改定する事が合意され、1986年関連刑法が改定され、今日に至っている。この1986年刑法改定に基づき、ゲーミング・カジノを州政府が主催し、規制できる枠組みができ、この連邦法を根拠として、州毎に制度構築がなされたのがカナダの現実である。この様に、カナダにおけるゲーミング・カジノ制度構築は、税収を巡る連邦政府と地方政府との妥協と税収増を期す州政府の意向から始まったことになる。
ややこしいのは、連邦刑法上は、過去の経緯に基づき、賭博行為を概念的に「ロッテリー・スキーム」と定義する慣行が制度として採用され、定義されていることにある。1906年の刑法規定に用いられた用語だが、この昔の考えが柔軟な意味合いで解釈され、現在でも残っている。1969年以降、この言葉は本当のロッテリーのみならず、ビンゴ、スポーツ・ベッテイング、カジノ・スタイルのゲーム、スロット・マシーンをも含むという広義の解釈で運用されており、これに基づき、実際の州政府による許諾賭博が実現した。よって、真におかしな話だが、カナダにおいては、法文上の解釈としては「ロッテリー・スキーム」とはカジノにおける様々な賭博行為やスロット・マシーン、ビデオ・マシーンなどを含む概念になる。
同様に刑法上の規定であるこれら許諾の対象になる賭博行為を「経営し、施行する」ことという表現に関しても、多様な解釈行為がなされ、この考え方次第で、誰が施行できるのかという異なった考え方がカナダの各州に生まれることになった。この結果、カナダでは下記の4つの異なった規制モデルでカジノを含む許諾賭博が州毎に異なった手法で施行されるに至っている。州政府が何をどこまでできるのかに関し、法文上の異なった解釈をとったことになる。
① 公社公団(直営)モデル:
州政府が直接カジノ施設を所有し、経営すべきと連邦法を解釈したことになり、州政府が100%出資し、所有する公社が直接運営するモデルになる。マニトバ州、ケベック州、サスケチュワン州、ブリテイッシュ・コロンビア州のカジノ施設はこのモデルによる。但し、公社自身は極めて民間的に経営・運営がなされている。
② ハイブリッド・モデル:
州政府の公社・公団は施行の責任は担うが、民間に施設整備と運営を委託し、リスクや収益を分担できるという解釈に立ったモデルになる。民間主体と一種の開発運営委託契約を締結し、施設の所有・施行権は州政府(公社)、日常的な施設の維持管理及びカジノの運営は民間事業者がこれを担い、民間主体は政府の代理人(エージェンシー)として機能し、公と民とでリスクと収益を分担する考えになる。オンタリオ州、ノバスコチア州はこのモデルによるカジノになる。
③ 慈善モデル:
州政府ではないが、非営利団体がかかる行為を担うことができるという考え方にたったモデルになる。即ち、非営利団体となる慈善団体や宗教団体を賭博行為の施行者・スポンサーとする様々な賭博遂行の在り方で、施設を提供し実際に運営を担う主体の認可とスポンサーの認可とを分け、後者の権利を慈善団体等に配分することにより、これらに対する活動財源補助を実現するという意味合いがある。アルバータ州は、この手法をすべての賭博行為に適用しているが、極めて例外的な考え方になる。
④ 原住民部族モデル:
在カナダ先住民部族(First Nation)が運営するカジノで、連邦法には記載がなく、州政府に与えられた権限の枠内で全く別枠として存在する。米国に触発され、カナダでもということになったのだが、カナダ在住のインデイアン部族を一種の非営利慈善団体とみなして、これが州政府に対してライセンスを申請する手法をとるというモデルが採用された。
一般的には上述中、公社モデルとハイブリッド・モデルがカナダにおけるカジノ施行方式の特色でもあり、基本的には公的主体がその収益の重要部を独占するモデルであることから、より一般的にはパブリック・オーナーシップモデルとこれを呼称している。この意味ではカナダの規制モデルは、公的主体の関与が強いモデルとなっている。