オンタリオ州は公民のハイブリッド方式により賭博の管理と施行を担うというユニークな手法を採用しており、公社となるOntario Lottery & Gaming Corporation(OLGC)が施行者となりながら、民間主体に契約委託をするという手法が取られてきた。一方、2010年7月にオンタリオ州政府は、OLGCに対し、ゲーミングの提供の在り方を見直し、税収増を図る改革を指示、これに基づき、OLGCは戦略的な事業形態の在り方の見直しを実行し、2012年3月に「オンタリオ州におけるロッテリーとゲーミングの現代化」と題する報告書を財務大臣に提出、公表した。この結果、同州の賭博提供の在り方は大きく変わろうとしている。
報告書における推奨事項は、①より顧客の視点にたった運営・経営を志向すること、②ロッテリーとゲーミングに関する管理された民間部門によるサービス提供を拡大すること、③ロッテリーとゲーミングに関するOLGCの監視機能を改革することという三つの項目になる。これら施策を取ることにより、2017~2018年までの間に、州財政に年間13億カナダ$の増収をもたらすという。 オンタリオ州の構図は、米国の様な民間事業者に対する単純ライセンス方式ではなく、公的部門自らが施行の責任者となりながら、運営実務を民間事業者に委ね、リスクとコストと収益を分担しあう一種のコストプラスフィー方式による委託行為に特徴があった。これを改革し、民間事業者の所掌と責任をより拡大することで、民間事業者の活力を引き出し、市場を活性化し、結果的に税収増を図るという考えになる。公的主体が主催者となる原則は変えずに、より米国方式に近い責任と所掌の分担を図るということでもあろう。
これは公社であるOLGC自身の機能や役割をより限定的、簡素なものにし、民間企業へ委ねる所掌をより大きくとる制度改革の方向に大きく舵をとることを意味している。
より具体的には下記が示唆されている。
1.民間参加の拡大によるOLGCの所掌縮小化:
✔既存の施設の運営や新たな施設の整備・運営、ロッテリー端末機器に関する新たな技術開発等は民間部門に委ねる(これにより30億㌦以上の民間投資を期待し、2,300人の新たな雇用、関連サービス分野における4,000人の雇用増を実現する)。
✔OLGCの現場運営を担っている職員を民間部門へ移籍させる(OLGCが所有し、監視するカジノ・リゾート施設は現状60%が民間部門職員で、40%がOLGC職員であったが、12~18ヶ月以内にこれを100%民間部門に移籍させる。実質的な現業部門への公社による直接的な関与はしないことを意味する)。
✔運営は民間主体に委ねるが、OLGCは施行者としての立場と運営に関する監視と管理の機能は継続して保持する。よって、新規施設整備や施設更新に際しては、OLGCの推奨、関連大臣と関連地方政府の許可を得て、民間部門が資金調達をし、かかる整備や更新を担うという手順がとられる(この点は全て民に委ねるわけではない)。
2.OLGCの監視に関する役割の変更:
✔ロッテリーとゲーミングの運営に関する重要な判断はOLGCが継続的に直接的な責任を担い、ロッテリーとゲーミングを管理し、オンタリオ政府に純収入を納付することになる。OLGCは市場の管理者として小さな組織とし、民間運営事業者の監視及び、責任ある賭博(Responsible Gambling)が実践されることに関しての責を担う。
✔オンタリオ州は依存症賭博問題に関し、年500万㌦以上を拠出する北米のリーダーとしての継続的な活動を担い、依存症問題対応事務所及び顔認識技術による対象者排除の仕組みが全ての現場に設置されるように図る。かつ依存症問題の調査研究・治療を継続的に支援するという立場は変えない。
上記考えに基づき、オンタリオ政府はカナダ最大の都市となるトロント市内に、OLGCが制度上の施行者として監督・監視をするが、より民間所掌に責任を委ねる新たな統合型リゾートとしてのゲーミング・カジノ施設を建設することを決定、現在入札途上にある。施行者としての公と運営者としての民を峻別する考えは米国の原住民カジノと類似的な考えになるが、オンタリオ州では米国の原住民カジノ以上に公的主体たる公社が深く運営の詳細にまで関与してきたのが実態でもあった。但し、これでは運営の効率化も図れないと共に、やはり民間主体の活力を引き出し、市場を活性化するには限界があったということなのであろう。
よって、競争市場において、オンタリオ州のカジノは、民間主体による活力のある行動を前提とする米国式により近づきつつある。