競馬場にVLT(ビデオ・ロッテリー・ターミナル)や電子テーブル(テーブル・ゲームを人間が介在しない機械が提供するゲームとしたもの)を併設するレイシーノ(Racino)は、カナダ・オンタリオ州においても1998年以降存在する。2011年の第四四半期時点では、17の競馬場に合計11,417台の機械が設置され、同四半期に米国㌦で4億2500万㌦、通年では平均米国㌦で17億㌦相当額の収益を計上した。仕組み自体は、公社であるOLGC(オンタリオ・ロッテリー・ゲーミング公社)が機材を直接メーカーから買い付け、所有し、これらを競馬場に設置し、運営も自ら担うという手法になる。収益は政府と民間とで分担しあう仕組みとなるが、OLGCが直接運営に関与している点が米国の事情と異なる点でもあろう。オンタリオ州ではこの制度をSARP(「競馬場スロットプログラム」、Slots at the Race Tracks Program)と呼称し、総粗収益は行政当局と競馬場関連者で分配する仕組みとなっている。即ち、総粗収益の80%を税として徴収し、この内75%は州政府に、5%は施設が設置してある市に配分される。残り20%が競馬場関係者の取り分となり、これは競馬場の運営事業者と騎手の間で50/50で配分されている。
仕組みとしては、競馬場関係者が直接VLTや電子テーブルの運営に関与しているわけではなく、単なる場所貸しに近い。運営に伴う収益配分は、政府による競馬産業に対する補助金にすぎず、約年間3億6500万カナダ㌦、1998年から通算すると総額37億カナダ㌦の補助金がこの産業に注ぎ込まれたことになる。ところが、OLGC改革に伴い、2013年以降、このSARPの仕組みも廃止されることが確定的になり、同州の競馬産業は新たな試練を迎えそうである。この競馬産業支援の枠組みは、他州(アルバータ、 ブリテイッシュ・コロンビア)と比較すると絶対額として約10倍になり、州の上水事業や道路補修予算よりも額が大きい。この税収を競馬産業の補助ではなく、教育や医療等、州にとりより優先度の高い他の支出に振り向けようという新しい政策になる。
より具体的には;
*2013年以降、SARPプログラムを廃止し、競馬場関係者への支援金(補助金)も廃止する。
*代替的に、競馬総粗収益にかかるパリ・ミュチュエル税の減税及び、実際に設置される機械等に関しては、競馬場関係者に施設賃貸料を支払う(施設賃貸料は交渉によりきめられるため、現時点では不明である。また合意できない場合には、機械を撤去することになる)。
*州政府は競馬場関連者に対し、上記以上の特別な費用分担ないしは支援を実施せず、競馬場は競馬場の自律的な運営に委ねる。
*結果として、機械の撤去もありえ、短期的にはレイシーノからの収益は減少する。但し、OLGCは代替的に州内の29区画を対象に新たなカジノ拡張計画を推進しようとしており、これらが実現する場合には、逆に雇用も、税収も増えるとしている。
2012年4月には州境近くにあった3つの競馬場から、VLTが撤去され(総数1,600台)、現状のレイシーノは14競馬場となり、設置台数は9,800台レベルとなっている。2013年に予定されるプログラム廃止に伴い、更なるVLTの撤去がありうると共に、補助金廃止に伴い、閉鎖を余技なくされる競馬場が生じてくるのではないかとも想定されている。
レイシーノの導入は、既存の賭博施設を利用し,新たな賭博種を提供することで、新たな集客を実現し、税収増を実現できたという意味では政策として成功したといえる。但し、;
① レイシーノは競馬場の顧客を増やし、競馬がもたらす収益自体を増やすことには貢献せず、競馬場自体は、レイシーノの収益分配で生きながらえてきたというのが実態ともなった。ここからシナジーは生まれていない。
② この結果、競馬場自体の合理化は遅れ、収益を出せない体質が定着してきたが、州としての財政難や、政権交代に伴う施策変更により、競馬産業への補助金を廃止し、競馬場は自立して、経営することが求められるようになった。競馬は最早衰退産業、自立できない場合は、廃止もありうるという政策判断なのであろう。