欧州カジノ協会(European Casino AssociatioN)が纏めた2011年の数値よると、欧州主要22ヶ国におけるカジノの総施設数(所謂陸上設置型カジノである)は731施設、総粗収益は70億3100万€に達し、この産業は56,790人を雇用する一大産業となっている(施設数、粗収益規模、雇用数いずれも2008年以降、不況等の影響もあり、毎年減少し、市場が縮小気味になっている。但し、このデータは、カジノ主要国である英国、一部東欧諸国、モナコ等のデータを含まず、かつ陸上カジノ施設のみを対象としているため、必ずしも正確とはいえない。2010年レベルでは英国には141施設、その売上は9.03億€に達し、欧州では1-2を争う市場規模となるが、統計データが一致しない為、正確な比較にはならない)。国別では、当然のことながら、個人所得の高い欧州主要先進国の賭博消費が遥かにその他の国を凌駕する。一般論として、施設数の多さと当該国民のゲーミング消費性向の強さが総消費額と市場の大きさを決める。この意味ではフランス、英国、ドイツ、イギリスは他の国を遥かに超えるカジノ大国である。その後はギリシャ、オランダ、スイス、イタリア、スペイン、ポルトガルと続くが、国毎に、制度が異なると共に、市場規模や環境、市場特性も異なり、顧客の構成も、外国人観光旅行客への依存度も大きく異なる。欧州では、中小規模の施設の中には観光旅客需要ではなく、地域住民に対する賭博需要を満たすことがその設置目的となっているという施設も数多い。
欧州全体の動向としては下記が着目すべき点になる。
① 市場の成熟化と安定的成長のポテンシャル:
2008年リーマン・ショック以前の時点では、継続的に供給が増大し(新たな施設展開、カジノ施設数の増大)、これが新たな需要・市場を生み出し、全体市場並びに域内の総粗収益を年々底上げしてきたというのが実態であった。ところが、2009年以降の不況によりこの成長は鈍化し、以後市場は若干縮小化しつつある。一方、カジノは、欧州における賭博支出全体の中では、必ずしも大きなシェアを占めているわけではない(ロッテリーが最大で、スポーツ・ベッテイングも人気がある。成長株はインターネット賭博になるが、正確な統計値は公共されておらず、上記データにもカウントされていない)。注目すべきはEUの拡大、欧州の広域一体化に基づき、域内観光旅客数は増大していると共に、カジノ施設を提供する国と域内施設総数が増えていることにある。短期的には市場は縮小化しているが、欧州諸国が今後持続的な経済発展をたどるとすれば、潜在的需要はまだ十分あり、中長期的には市場は今後とも発展する可能性が高い。
② 施設は平均して中小規模が多く、国毎、地域毎に分断された市場:
施設自体の規模は左程大きくなく、かつ地理的に産業集積がなされているケースは例外的な観光地域でしかない。この意味では、施設は分散して設置され、市場は地理的、地域的に分断して構成されている。あるいは国単位に市場が構成され、その中で独占的な施行がなされていると判断できる地域も多い(一定国の国内で総施行数を規制している国と施行数は限定しないが、穏やかに市場を管理しながら、施行の在り方を規制するという国がある。自由に施行ができるという国は欧州には存在しない)。よって、基本的には現状は国(ないしは連邦制の場合州)が賭博行為の許諾権並びに管轄権をバラバラに保持し、国毎に異なった制度と市場が並存する。この意味では、欧州の賭博世界には統一市場は存在しない。かつ全般的に税率は他国と比較すると高い(これが施設規模が限定される一つの理由ともなっている)。
③ 市場管理施策により異なる市場の構造:
一定国内で、賭博を提供する総量を規制する市場管理施策をとっている国と、これをしない国の二つの類型が存在し、国の数としては前者の方が圧倒的に多い。過半の国では、国内における市場規模や潜在的顧客数、あるいは一定国の地理的状況や観光施策の考え方の差異により、地域内における施行数を予め限定し、規制している。この場合でも、集中的な巨大設備は少なく、地域の需要に合わせた中規模施設を分散して設置することが多い。一方、これが無い国では、施行数は基本的には需給関係で決まることが基本になる。この場合には、施行施設数が多くなるが、やはり需要に見合った中小規模施設が多い。最もEUという統一市場の拡大や、国境を跨る自由な経済活動の活性化、交通の利便性の飛躍的向上などにより、事実上、各国の為政者にとり、自国にある施設をコントロールできても、自国民の行動を規制できなくなっている現象が生じてしている。インターネット賭博市場は更にこの趨勢を加速化した。
④ 多様なビジネス・モデル:
上記の結果、欧州のカジノには多様なビジネス・モデルが存在する。中小規模カジノは、施設内の収容可能ポジション数はわずか100~200程度にすぎず、専ら地域顧客の潜在的賭博需要を満たすローカルな施設でしかない。この場合、テーブル・ゲームを少なくし、機械ゲームを増やすことが明らかに収益増をもたらすことになり、一部では機械ゲームだけを設置した(スロット・パーラーとでもいうべき)簡易カジノが生まれている。一方、一部の著名な観光地域、今後旅行客を誘致することを企図している拡大欧州周辺国における潜在的な観光地域などでは、より多いポジション数の施設、カジノの複合観光施設化、大型化などが進行しつつある。