カジノの施行に係わる政策目的に関しては大陸諸国と英国では微妙な差異が存在した。多くの大陸諸国においては、①観光振興・地域経済振興、②観光客誘致・新たな観光資源の創出、観光的魅力の増大、あるいは③税収確保等が本来的な政策目的となっている。過半の国の制度では、カジノを施行し、税収を確保することが唯一の目的ではなく、あくまでも観光振興の一環ないしは一要素として、観光地やリゾート地、温泉保養地、あるいは観光都市において観光客にとっての魅力を増すための一つの手法という複数の目的を位置付けている国が多い。また自国民が他国のカジノ観光施設を訪問したり、消費したりする事に対する税収や消費の国外流出を避けるという政策目的をとる国も一部には存在する。
一方英国においては、歴史的に、あるべき政策や制度の基本として、意図的に射幸心を煽り、賭博需要を喚起することは好ましく無いとする立場に立脚し、制度の目的を顧客を保護し、賭博行為を健全化、安全化し、賭博行為を健全な娯楽の一つとして規制しながらも許諾することにおいている。これは、需要と供給の合理的な関係の中で、需要が存在する限り、抑制的に施行を認めるという考え方にもなる(2005年英国統合賭博法により、この考えは是正されたが、市場における絶対的供給量を何等かの手法で管理するという政策的スタンスを英国政府は変えているわけではない)。この場合、施行に伴う税収も英国においては一義的な政策目的というよりも付随的な目的でしかなく、大陸諸国とはかなり事情が異なる側面がある。
制度的には、殆どの国において、賭博行為を商業的に営むこと、またこれに顧客として参加することは、一般法たる刑法上の罪を構成し、特例的に定められた法律により、この例外規定を設けることにより、正当化し、商業的賭博を認めるという考え方を採る。一部の例外を除き、過半の欧州諸国において、如何なる主体に如何なる条件でこれを許諾するかの判断は国の専権となる。一方、国が如何なる権限を保持し、これがどう行使されるかに関しては国によっても状況は異なる。オーストリア、オランダ等は、国自体がカジノ施行の独占権を保持し、この国の権限の施行を国が指定する特定主体に委ねるという考え方を採る。一方多くの国では、国が占有する権利としてではなく、あくまでも一定の制度的枠組みの中において、国が特定の民間主体に対して、特許としてのコンセッション(ライセンスという考えに近い)を付与し、これを取得した主体が、その権限の範囲内において施行を担うことができるという考え方を採る(例:フランス、スイス等)。前者の場合には専ら単一の独占主体にその施行を委ねるという考え方が採られることが多い。施行権の付与、剥奪、停止、更新拒否等が一定の判断基準と共に、国の専権となることは大半の国においても同一となるが、これら権限と共に、実際の施行を国が如何に監視し、あるいは管理するかに関しては、欧州諸国には、多様な考え方とモデルが存在する。
例えば:
①規制機関と法の執行を担う主体が同一主体となる考え:
規制を制定し、許諾を付与し、施行全体を監視する国の機関と違法行為を摘発し、法の遵守を担保する国の機関が同一である国がある(例:フランス)。内務省等の公安当局に許認可権限や違法行為摘発権限を全て集中させる国の事情になる。規制と法の執行が合体している以上、効果的な監視・管理ができるが、他方では、過剰な規制となったり、公安当局の裁量が強く働いたりするリスクがある制度になる。
②規制機関と法の執行を担う主体を峻別する考え:
一方、独立した国の規制機関を設け、この規制機関と法の執行を担う公安当局とを別組織として切り離し、規制と法の執行を峻別する体制を採る国もある。この場合、規制当局は法が適切に施行され、法の遵守が為されているかの監視はするが、不正や違法行為の摘発等は一般法に基づく既存の警察当局が担い、規制当局は、協力はするが、関与しない形式を採る場合が多い。一方税金徴収や収益管理に関しては別の国の機関が徴収、検査、査察を行ったりする国や、あるいは規制当局がこの側面をも自ら担うという国等も存在する。
③施行や地点の許諾を担う機関、規制・監視・適格性認証等を担う規制機関、法の執行を担う主体等を機能毎に峻別する考え:
規則を制定したり、認証したりする規制機関や法の執行を担う公安当局とは別の公的主体が、特定地点・特定地域で施行を認めるか否かの判断と認可を担う手法をとる国がある。施行に際し、地域の合意形成を重視する考えになる(例:英国)。
一国の制度の在り方には、多様な考えがあり、その是非を論じることは難しい。如何なる遊興賭博が如何に提供されているかにもより、何が適切かの考え方も異なってくるためで、各国毎にそれなりの事情と過去の経緯がある。