カジノとは本来地理的・物理的に特定化され、隔離された場所においてゲームが施行されることを前提に制度や規制が構築されてきた。ところが、情報技術とコンピュータ技術の発展は、インターネット上において、何らの規制も受けずに、かつ特段の税も支払わずにカジノを開帳し、顧客を募るという業態を可能にしてしまった。これが、インターネット・カジノないしはサイバー・カジノと呼称するカジノ類型となる。欧州市場においても、かかるインターネット・カジノは過去10年間に亘り、急激な成長を見せており、最も成長率の高い賭博市場セグメントになりつつある。サイバー・カジノはブロードバンド化により、臨場感のあるゲームやスロット・マシーン等を、3D画像を駆使して提供できるようになっており、この仮想空間で賭け事を提供し、賭け金の支払いや払い戻しはクレジット・カードや電子マネー等を利用することになる。国毎の規制や国境を乗り越えて顧客が自由に参加することができる仮想空間で賭博行為が行われる場合、従来の個別の国毎の規制概念では対応できなくなる。これに対する施策は欧州の国毎に大きく異なっており、現在でも様々な考え方があるが、欧州市場の趨勢は、インターネッを利用した一部の賭博種を認めようとする方向性にある。
事実として認識すべきは、①サイバー世界は一国の法律で規制することは不可能であり、例え違法であっても、外国事業者を罰する事もできなければ、自国民が参加しても、これを違法とし、摘発することも不可能に近いこと、②効果的に施行を監視するためには、物理的に自国にサーバーを設置させ、ソフトウエアとシステムを検証することにより事業者を規制し、自国内において監視の対象にしなければ不可能となること、③他国をベースに自国民に対しネット・ビジネスを展開された場合、税収の遺漏等も当然生じること等にある。この政策的対応は、各国の政策的意思と事情を反映し、各国毎に微妙に異なる。但し、EU委員会の主張、及び欧州裁判所の判例に基づき、所謂スポーツ・ベッテイングやインターネット・ポーカーという限られた分野においては、急速に規制緩和(ないしは新たな立法措置)が進み、ネットによる一部賭博行為が各国により認められつつある。(本格的なカジノのゲームを網羅する)全ての賭博行為ではないが、インターネットを使用する賭博行為が段階的に認められつつあるというのが欧州の現実でもあろう。
現状は、例えば、欧州27ヶ国を対象として、オンラインによる賭博行為の提供の実体をみる場合、
① オンライン・スポーツ・ベッテイング:EU27ヶ国中20ヶ国で施行されている。
② オンライン・ロッテリー:EU27ヶ国中18ヶ国でオンラインにより商品が販売されている。
③ インターネット・ポーカー等の技巧を要するオンライン・ゲーム:EU27ヶ国中12ヶ国で施行されている。
と、過半の国で実質的なオンラインによる賭博提供が行われている。かつこの趨勢は欧州各国共通になりつつある。もっとも微妙に内容が異なり、例えば下記などの差異がある。
i. 他国の事業者の参入は認めるが、サーバーを自国に設置させ、自国民のみを対象にオンラインで提供することを認める(フランス)。
ii. 認証・監視・監査の対象になることを条件に(自国のみならず)他国に設置したサーバーから自国に対しネットで賭博サービスを提供することを認める(イタリア)。
iii. あらゆる国籍の事業者参入を認め、自国のみならず、あらゆる国を対象市場とすることを認める(英国、マルタ、英領ジブラルタル)。
ⅳ. 基本的にネットで認めるのはスポーツ・ブッキングとインターネット・ポーカーのみで、所謂カジノ・ゲーム~トランプやサイコロを使用するゲームは未だ禁止とする(フランス)。
v. 全てのゲーム種を基本的に認める(英国、イタリア、マルタ、英領ジブラルタル)。
ⅵ. 特定の国営公社等のみの参入を認め、外国事業者の参入は認めない(北欧諸国。但し、EU委員会は国による独占を好ましくないとするスタンスをとっており、この仕組みは時間の問題で是正されると想定されている)。
許諾する国の考えは、
① サイバー世界そのものは規制できない、また違法とした所で犯罪行為を摘発することは不可能に近いこと、
② 不正や問題が生じないように、顧客保護を図ることが先決で、この為に国内にサーバーを設置させ、サーバーを管理の対象とすることで施行者を規制と課税の対象とすることができること、
③ 顧客にとっては、その公平性と健全性が管理され、認知された施行者の方が、信頼性が高まること。基本的には顧客の責任による施行者(ウエッブ・サイト)の選択ということになるが、国が認可した事業者である限り、より確実に顧客を保護し、安全性を高めることができること、
等になる。
EU域内にて、ネット賭博を統一的に規制したり、認めたりする制度は現状存在しないが、上記はインターネットによるスポーツ・ブッキングやロッテリーの分野から実質的に各国の制度が規制緩和の方向に向かいつつある状況を示している。注目すべきは、サイバー・カジノの進展は各国が自国領域にて課す制度や規制の枠を大きく変えてしまうことにある。カジノは本来的には目的志向型施設であり、かつ対面・ライブ・ゲームを前提としていたのだが、顧客の嗜好の変化やエンターテイメント・娯楽のあり方はこの考え方を変える要素があるという事になる。